乾石智子「太陽の石」

「夜の写本師」「魔導師の月」と再読したので、シリーズ読みを再開(解説によると<オーリエラントの魔道師>シリーズと言うそうだ)

第三作目を図書館で借りようとするとない!その次のはあるのに!
検索をしてもこれだけない!
ということで購入依頼(?)みたいのを書いたけれども、近隣の市の図書館から借りてきたものみたいだった。いいんだけど、シリーズ中抜けって気持ち悪いよな…とも。

それはそうと、もうこれは購入してもいいかな、と思い始めたくらい面白かったし、読むと前作が気になる。
「夜の写本師」と「魔道師の月」のように前作と直接リンクしているわけではないけれども、同じ国の何百年後、みたいな設定なので、国の状況がこう変わったのか~というのを見たいという点でも確認したいというか。

何はともあれ。簡単なあらすじはというと。


舞台は前作から何年も経ったコンスル帝国。コンスル帝国もすっかり疲弊してしまっており、帝国の政治もうまくいってない感じ。その最北西を位置するところの少年デイスが主人公。

彼は捨て子で、姉ネアリイが幼い頃に両親を説得して拾った子であった。

ある時、ゴルツ山というところで<太陽の石>という緑の宝石をつけた肩留め(フィブラ)を見つける。
それをきっかっけに、ゴルツ山に眠るという魔導士リンターが目覚めてします。

彼は当時名をとどろかせていた魔導師9人兄弟のイザーカト兄弟の内の一人で、壮大な兄弟げんかのすえに、空からその地に落ちてきた、といういわれを持つ魔導師だった。

そして、デイスと、ディスの幼馴染(というより喧嘩仲間)のビュリアンを連れて町を出るという。それにネアリイがごねて同行することになって、4人の旅が始まるのだった。

旅をしていくなかで、デイスは実はイザーカト兄弟の末弟デイサンダーで。その記憶がよみがえってくる。デイスの記憶によって読者もイザーカト兄弟の喧嘩(というのにはあまりにも壮絶だけども)の顛末が分かってくる。

喧嘩の大元は三人目のナハティ。彼女は一番強力な魔導師だった。
彼女の視線もあるので、彼女が闇落ちしていく理由も分かってくる。

小さい頃からしっかりしていたナハティは、上も二人よりも家族を支えていたという自負があった。
しかし両親が亡くなってから二人が家長っぽく振舞いだして、更にはすぐ下のカサンドラが慕われるようになり…というので、嫉妬心が膨れ上がりという感じだった。

最強の魔導師として実績を積んだナハティは、まず上二人を追放し、その後も強い力をもってやりたい放題。
魔導師は心を持たないものなので、ナハティの暴挙も”面白いもの”と認識していたが、さすがにやばいと思い始める。
そんな折に、イザーカト兄弟の良心であったカサンドラを、ナハティがむごい殺し方をしたきっかけに、リンターは怒り狂い、ナハティと戦う。結果、両者とも飛ばされてしまう。

喧嘩前にあった戦で、イザーカト兄弟のうちミルディを殺した敵国の魔導師ザナザも仲間に加えて旅を進める。

まず行き当たったのが、ナハティ側についてヤエリ。彼女は超潔癖で、魔導師は汚いものとして、魔導師狩りを行っていた張本人だった。
その中に、長年、目くらましの術で違う人になりすまして動向をうかがっていた、デイサンダーと一番仲良かった1つ上の兄イリアを見つけ出し、仲間となる。

ネアリイが結構キーとなる登場人物となっており、魔導師は本来心のない者であった。
が、デイサンダーはネアリイの弟として人生を再度過ごす過程で心を育み、またイリアもネアリイと恋仲のような関係になる。

が…一行を追いかけて来たヤエリによりネアリイは捕らえられ、更にはヤエリによって殺されてしまう。
それに対してリンターはヤエリを殺し、自らも死んでしまう。
死ぬ間際に自分の力をイリアとデイサンダーに渡して…

元々、憎悪に囚われていたリンターは命が長くないということを自分でもわかっていて、同じ轍を踏まぬよう、イリアとデイサンダーに伝える。
しかしリンターの力をもらう時に闇ももらったのもあり、二人はリンターやネアリイの復讐をしようとナハティの元へ向かうのだった。

その途中でビュリアンに、リンターが彼を連れてきた理由を明かされる。それはデイスが山で拾った<太陽の石>はデイサンダーの物なのだが、それは星がつまった石。闇にのまれて命が潰えそうになったら、それを傷口に入れると魔法の力はなくなるだろうが、それゆえに命は助かるだろう。それをするのがビュリアンの役割、というわけであった。

いよいよナハティとの戦い。もはやナハティとはいえないくらいの闇落ちし、悪意しかない。
ナハティがデイサンダーたちの力を奪い取ろうとしたとき、デイサンダーはビュリアンに<太陽の石>をねじ込むこを頼む。

が、ビュリアンが行ったのは、ナハティにフィブラの針を刺すことであった。
それがネアリイの力も宿ったのか(ネアリイはフィブラの針で殺された)、ナハティから決して外れず、大地の力によってナハティはどんどん縮まり、最終的にはもはやナハティの名も持たない、小さな闇となって地面の隙間から地中に入っていった。

闇が完全になくなったわけではないけれども、とりあえず逃れられたのだ。

深い傷を負ったものの、イリアとデイサンダーは生き残る。

ビュリアンとザナザはその地に残り、イリアは<冬の砦>へ、デイサンダーはネアリイの死を伝えに両親の元へと戻っていくのだった。


この3作を通して、作者は「闇」というものに重点を置いているのがよく分かった。
魔法を使うということは、”闇”がないといけない。その闇とどう対峙していくのか、というのがメインテーマっぽい。

の割には、闇の扱いが若干安易な気がしないでもないけれども、全体的には物語に緩急があったり、描写が映像的で想像しやすかったりと、まったく飽きさせない展開になっている。

映像的の例で、最後、ナハティにフィブラの針が刺さったシーンを抜粋すると;

 縛めから自由になった大地に、イリアとデイサンダーの魔力が広がっていった。そうしてナハティの呪いの破片を緑に染めていく。

 焼かれたクルミの実、押しつぶされたドングリ、断ち切られたタンポポの根、スイバや薄荷やセージの茎、蔦の蔓、そうしたものが再び命を得、石の下瓦礫の下、炎の中からよみがえっていく。密林で繁茂する羊歯類顔負けの勢いで芽を出し、茎や葉をのばし、根をはりめぐらせ、あの灼熱の雲を噴きだしている裂け目にさえはびこり、溶けては茂り、消滅してはのび、焼けても芽吹き、決して途切れることがない。

p258

こういった表現がまだ続くのだが、このたたみかけるような語り口調が、それぞれ明確な描写表現となっているので、”緑に染めていく”過程がはっきりイメージできる。「闇」に対する設定力がちょっと足りない気がするけれども、それを上回る描写力で、この物語を魅力的にしているのだと思った。


乾石智子「太陽の石」2012年 東京創元社

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