フランク・ウイン「フェルメールになれなかった男-20世紀最大の贋作事件」

フェルメールについて調べていた一貫で読んだ本。
実際にあった贋作事件で、第二次世界大戦中に敵国ナチスに、オランダの宝フェルメールの絵画を売った罪で逮捕されたハン・ファン・メーヘレンが、実は売ったのは自分が描いた贋作だったと告白したことで明るみになった事件の話。

限りなくノン・フィクションのようだけれども、ファン・メーヘレンを主人公にしたストーリー仕立てになっているので、どこまでが事実なのかは疑わしい。
そして、このノン・フィクションなのか、物語なのかがよく分からない中途半端な状態が、ちょっとこの本をつまらなくしている。。。
ノン・フィクションというほど迫真性がなく、物語というほどキャラクターに肉付けされていなくて薄いというか…

簡単にまとめると…

  • 父親から抑圧されて屈折された幼少期を過ごした(兄がそのため、ろくに治療されず病死してしまう)
  • 最初に習ったのが古い絵画技法で、それが後に役立つ
  • ファン・メーヘレンの時代といえばピカソを代表する近代絵画の時代だけれども、ずっと古いスタイルに固執していた
  • そのためアート界から爪弾きにあい、それをずっと恨んでいて、贋作はそれへの復讐だった
  • 最初に大成功をおさめる贋作《エマオの食事》は、その前に贋作を看破されたブレディウスの元へ持って行ってもらい(復讐をこめて)、ブレディウスによって太鼓判を押された
  • 当時、敵国(ナチス)への絵画流出を恐れていた世情もあり、化学的検証がまったく行われずに購入された
  • 女遊び、アル中、モルヒネ中毒とかなりただれた生活をしていた
  • 贋作の質もものすごく下がったが、それでも売れた
  • フェルメールなどの贋作が明るみになり、裁判となった際、《エマオの食事》に関して、所有者がなかなか贋作であるということを認めなかった!
  • ナチスを騙した人、ということで、かなり英雄視された
  • 判決が出てすぐ、心臓発作で死んでしまった

かなりクズな描かれ方をしているので、正直、読んでいた楽しくない本だった、というのが正直なところ。
クズはクズなりに魅力があればいいんだけれども、そういう風には描かれていないし、
贋作者のプライドに賭けて完璧なものを描こう!という気概はまったくなく、
駄作を描き続けるのもなんだかなー…という感じだった。
もはやそれは、アート界への復讐の域を超えて、アート自体への冒涜なのでは?という感じ。
って、実在の人で、アル中&モルヒネ中に言っても仕方のないことだけれども…

結局、戦争という異常な状況(戦争前も含め)だったからこその事件だったんだろうな…
とにかくフェルメールとは似ても似つかぬ絵で、むしろ気持ち悪い絵なので、バイアスって本当に怖いなというのが、この本から得られる教訓かもしれない。

最後に本書から引用。といってもデュシャンの『創造的な行為』からの抜粋だそうだけれど

結局、芸術家はどこの屋根の上からでも、自分は天才だと叫んでいいのだ。ただし、己れの叫びが社会的な価値を帯び、遂には己れの名が後世の者により美術史の入門書に書き記されるためには、観者の判定を待たなければならないだろう

p80

ある意味、勝ち組の言葉と言えるかもしれないが、本書においては、その観者が騙されてしまったということで、皮肉な言葉に聞こえてしまう。


フランク・ウイン「フェルメールになれなかった男-20世紀最大の贋作事件-」小林賴子・池田みゆき訳 2012年 武田ランダムハウスジャパン

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