辻村深月「かがみの孤城」

辻村深月「かがみの孤城」2017年 ポプラ社

辻村深月というと、昔読んでめちゃくちゃ面白かったけれども、微妙に他の本とリンクしているところもあるから、時系列に読まないといけないなーと思ったきり、面倒くさくてそのままになっていた。
が、たまたま見かけて、「あ、そういえば」と思って手に取った本書。

めちゃくちゃ面白くて一気読みもいいところ。
木曜日夜に読んで、明日あるしこれは危ないと強制終了し、金曜夜に読み切った!

正直なところ、途中でオチが分かってしまったんだけれども、それが分かっても魅力は変わらない。

まず人物描写がしっかりしている。
メインの登場人物が7人もいるけれども、それぞれがしっかりと描き分けられ、しかも細かい、ちょっとした嫌な感じとかも描かれているのもすごい。

それに近しいけれども、ちょっとした感情の機微も描かれている。
例えば、ある意味、社会のはみ出し者になってしまった7名がお互いに帰属意識を持ち始めるなか、やはり本来の世界に戻らないとという焦りであったり、違う子のそれに敏感に感じ取って嫌な気持ちになったり…という細かい心理描写がうまい。
物語としては、異世界に集うという非現実的な話ではあるけれども、その感情がリアルなので、読者も共感を持ちながら読めるようになっていた。

終わり方が100%自分の好み、というわけではなかったけれども、全体を通して非常に楽しめる本だった。

ということで、以下、簡単なあらすじだけれども、ネタバレを含むので注意!!!


主人公の安西こころは、中学校に入学したとたんいじめにあい、不登校になっている。
両親は共稼ぎのため、日中は一人で部屋で過ごしているのだが、ある時、部屋の姿見が光り、姿見の中に入れてしまう。

中に入ると立派な洋館の中で、狼のお面をかぶってフリルのある洋服を着た女の子がいた。その子は「オオカミさま」というらしい。
こころの他に6名の少年少女が集められていた。

オオカミさまいわく、この邸のどこかに願いの部屋への鍵があり、その鍵を見つけて願いの部屋に入った者の願いをかなえてくれるとのこと。
招集された時は5月。そこから3月30日までこの邸に入ることができ、鍵探しができるのだ。

もし、その途中で鍵が見つかって願いの部屋に入れば、その時点でこの世界は消滅。
これは後から、皆が仲良くなってから知らされるのだが、誰かの願いが叶うと、皆のここでの記憶は消えるらしい。

もし誰も鍵を見つけられなかった場合は、3月30日で強制終了。
その時は記憶は消えないらしい。

もう1つルールがあって、ここへは日本時間の9時から5時しかいられない。
もし5時過ぎてもここにいた場合は、狼に食べられる。
しかも残っていた子だけではなく、連帯責任ということで、その日にいた子全員、食べられてしまう。

招集された子たちは、それぞれこんな感じ。

  • 安西こころ:主人公。中学1年生
  • アキ:ポニーテールの女の子で、はきはきした子。中学3年生
  • リオン:イケメンの男の子。サッカーの推薦でハワイの学校で一人、寮生活をしている。中学1年生
  • フウカ:眼鏡をかけた、声優声の女の子。きつい物言いの子。中学2年生
  • マサムネ:ゲーム好きの男の子で、わりと生意気なことをよく言う子。中学2年生
  • スバル:飄々とした大人っぽい男の子。中学3年生
  • ウレシノ:小太りの男の子。惚れっぽく、アキ→こころ→フウカの順で惚れていく。中学1年生

昼間に来れているということは、皆学校に行ってないということで、特に事情は話さないものの、連帯感みたいのが生まれてくる。
だからリオンが、実は学校に行っていて、しかもハワイの学校ということが分かった時にはひと悶着が起きるが、リオンも色々と抱えているらしく、引き続き頻繁に来るのであった。

鏡のなかの世界と並行して、こころの現実世界の話も進む。
学校に行けない子たちが行く、フリースクール「心の教室」に行こうとするが、行くときになるとお腹が痛くなってしまうこころ。
しかし、その学校にいる喜多嶋先生は親身になってくれ、こころも頼りにし出す。
また、こころの母親にも、こころが学校に行けなくなったのは何か原因があるからだと言ってくれ(こころは実際にあったことを伝えていなかった)、それをきっかけに、ようやくこころは自分にされたことを母親に伝えるのだった。

鏡の世界での1つ目の転換となるのが、ある時、アキが制服を着て来たときだった。
なんとそれがこころの中学校と同じ雪科第五中学校の制服だったのだ。
しかもこころだけではなく、次々とやってくる皆が驚く。
なんと、リオンですら、ハワイに行かなかったとしたら行っていた中学校が、雪科第五中学校というのだ。
ということで、この7人の共通点は雪科第五中学校に通うべき子だったというのが判明する。

その後、マサムネが提案する。
1回中学校に行かなくてはいけなくなったが、皆が同じ中学校に行っているのであれば助け合えるのではないか、と。
日にちを決めて、教室がだめだったら保健室、それがだめなら図書室…と決めて、1月10日に皆で学校に行くことにする。

こころも勇気をふりしぼっていくが…
保健室にも誰もおらず、先生に聞いてもそんな生徒はいないと言う。
挙句の果てには、いじめていた子の見当違いな手紙、そしてそれを読んで許してやってほしいと的外れなことを言う担任の先生に心が折れているところに、喜多嶋先生が来てくれて、そこで一層、喜多嶋先生への信頼が高まるのだった。

その後、鏡の世界に戻ると、やはり皆学校に行っていて、そしてやはり誰も会えなかったという。
そこでマサムネが「パラレルワールドなのではないか」という仮説をたてる。
つまり、やはり皆は助け合えないのだ…
が、オオカミさまはパラレルワールドを否定、会えないこともない、というあいまいな言葉を残す…

そしてクライマックス。
3月も終わりに近づいているのに、鍵が見つからない。

その日、こころは現実世界にて、本当は友達になりたかったけれど、いじめられた時に、いじめ側について無視していた女の子、東条萌と出会う。
萌こそが、喜多嶋先生にこころのことをすべて伝えた子だった。
萌が謝罪し、二人は再び仲良くなるが、萌は転校してしまうらしい。が、萌の「学校が世界のすべてではない」という言葉に救われる。

萌の家から戻ると、鏡が割れてしまう。そして鏡の向こうからスバルやリオンの声が聞こえる。
なんと、アキがルール違反を犯し、皆食べられてしまいそうだというのだ。
そしてリオンが最大のヒントを伝える。
オオカミさまは、ずっとこころたちのことを「赤ずきんちゃん」と呼んでいたけれども、それはミスリードで、オオカミさまは「七ひきの子やぎ」の”オオカミ”だったんだ、と。

鏡の世界に入ったこころは、各所についていた「×」印をめぐる。
その印は謎だったが、「七ひきの子やぎ」で子やぎが隠れていた場所だったのだ。
その1つ1つをめぐると、それぞれ皆の記憶が蘇ってきた。

ウソつき呼ばわれされて「ホラマサ」といじめられたマサムネ。父親は低俗な学校だからと切り捨てるが、自分が原因なのではないかと思いつつ、父親の言葉にすがる。

マサムネに会うために日曜日なのに学校に来たウレシノ。でも誰も来なくて母親と喜多嶋先生が来る。

両親に見捨てられ祖父母に預けられたスバル。不良になった兄に時々使われながらも、誰からも気に留められず、他の6名たちがなんやかんや親に気にかけられていて贅沢だなと思っている。

ピアノの先生に”天才”と言われてから、母親の期待を一身にあびてピアノを続けるフウカ。本当は才能なんてもうないのに、シングルマザーの母親が無理してお金を工面しているため、何も言えない。が、コンクールの順位はさがってついには圏外になってしまった。皆の言う喜多嶋先生に出会い、学校の勉強を今更ながら頑張ることにして、一歩を踏み出した。

幼い頃から病気にかかってしまった姉を持つリオン。姉の実生は中学校の制服を着ることなく亡くなってしまった。サッカーが得意だった母親は、寄宿舎付きのハワイの学校を勧める。リオンに遠くに行ってほしいのだと悟ったリオンはそれに従う。

最後がアキの記憶。アキの生活環境は最悪で、母親の再婚相手に性的暴行を受けていたうえに、学校ではクラブ活動できつく指導した原因で友達たちに嫌われている。
現実に戻りたくなさすぎて、鍵が見つからず願いがかなわないのであれば、しかもパラレルワールドで皆で助け合えないのであれば、この世界で居続ける、と決めたのだった。

「七匹の子やぎ」で助かったのは大きな時計の中。そここそが鍵がある場所であった。
こころはリオンのヒントとともにたどり着き、鍵を見つけ出し、その奥にある願いの部屋に入る。
アキが犯してしまったルール違反を帳消しにしてもらうのだった。

そしてクローゼットから出てきたがらないアキを、他の皆で引っ張り出し、パラレルワールドではなくて、皆同じ世界、でも時代が違う人たちだったのだと伝える。

その後、皆で整理すると、スバル→アキ→こころとリオン(二人は同時代)→マサムネ→フウカ→ウレシノの順で、7年ごとの差があることに気付くのだった。
ただし、アキとこころたちの間は14年空いている。
願いが叶ってしまったので、皆の記憶はなくなってしまうが、「どこかで会えたら」と別れを告げる。

と最後に、もう1つネタ明かしがある。
リオンは引き返し、オオカミさまに「姉ちゃん」と呼びかける。
オオカミさまこそリオンの姉で、リオンを心配した姉が創った世界なのではないかと言うのだ。
3月31日ではなく30日が期限なのは、実生の命日が3月30日だから。
水などのライフラインがないのに電気だけがあるのは、実生のドールハウスでは豆電球だけがついたから。
「七匹の子やぎ」なのは実生が好きな絵本で、幼いリオンに繰り返し話聞かせたから。
皆が七歳差だったのは、実生と理音の差が七歳だから。そして、アキとこころたちの間が14年空いているのは、その間にいるのが実生だから。
きっと実生の願いは「理音と一緒に遊んで、日本の学校に行きたかった理音に、出会うはずだった友達を作ってあげたい」だったのではないか。

リオンが最後の頼みとして、姉のことや皆の記憶を残してほしいと、オオカミさまにお願いする。
そして最後のシーンで、こころは転校することなく雪科第五中学校に戻ってきて、そこで夢想していたように人気者になりそうな転校生、つまりリオンに声をかけられて終わる。

最後の最後、エピローグでは、アキの後日譚が出てきて、喜多嶋先生こそがアキだったことが分かるのだ。


すごくうまいな、と思うのが、最終的にはこころたちは鏡の世界の記憶はなくなってしまうのだが、実生活の中でも、例えばこころは喜多嶋先生であったり萌であったり、もう一度頑張ろうという気持ちをわかせるきっかけができている。
そのため、記憶はなくなってしまっても、鏡の世界を通して前向きになった気持ちはそのままに、雪科第五中学校に、また通い始められるのだ。
喜多嶋先生がまわりまわってアキだった、というのもポイントかもしれないけれども、現実の世界でも救いがある、というのは大きなメッセージなのではないかと思った。

正直、パラレルワールドではなく、時代が違うのでは?というのは割とすぐ気づいたし(なので「マサムネ!違う!」となった)、喜多嶋先生がこの中の誰かなのでは…?と薄々気付いたため、大きなどんでん返しという訳ではなかったけれども、前述の通り、そこが本書のポイントではないので、十分楽しかった。

1つ難点を言うと、これが実生が創った世界、というのが、うーーーん……、なんとなく安直なような気もしないでもないけれども…
あと、そんなイケメンのリオンがこころと仲良くなったら、それはそれで問題なのでは…?とちょっと思ってしまった…めっちゃベタな少女漫画的展開だなーとも。
って1つではないな。

とにもかくにも、こんなにも一気読みしてしまった本は久しぶりだったので、ちょっとしたマイナス要素が凌駕されるほどの本だったことは間違いない。
他の辻村深月の作品が読みたくなった。

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