乾石智子「オーリエラントの魔導師たち」

シリーズ初めての短編集。
短編集は苦手だけれども、本書は結構楽しめた。たぶん、きりよく終わって、話もちょうどいい浅さなので、尻切れトンボ感もなく、だからといってあっさり終わったなーという感覚もなかったんだと思う。

ということで、以下、各話の簡単なあらすじ。ネタバレ的なものを含むので注意!

「紐結びの魔道師」

前作の「太陽の石」の前の話らしく、ヤエリが創設した、魔道師狩の銀戦士が出てくる。

物語は、ある小さな町に貴石の魔道師カッシがやってくる。感じはよくないが、リクエンシスという魔道師に会いたいと言う。
リクエンシスのことを知っている元戦士のエンスに、なかば無理やり同行して、エンスと同居人リコと呼ばれる老人の家にやってくる。
リクエンシスと会いたい理由が、魔術対決だと言うが、実はリクエンシスが持っている<炎の玉髄>という石が目的で、見事に術にひっかかり指をなくす。

エンスはその昔銀戦士で、その時に盗んだのが<炎の玉髄>だった。
それを追って、というわけではないけれども、銀戦士たちも町に訪れ、魔道師を捕えようとするのを、エンスはカッシを生贄にして逃げようとする。
結局はリコの反対に会い、カッシも助け、銀戦士をまくのだが、そこでやっとリクエンシスはエンスだということが明かされる(それまでは、少なくともカッシはリコだと思っていた)。
カッシが<炎の玉髄>を欲していた理由が、村を救うためと聞いて、エンスは簡単に渡すのだった。

「闇を抱く」

男尊女卑の世界。父や夫などに虐げられている女性が駆け込む、秘密の組織があった。
魔道師が弾圧されるなか、女性たちは秘密にすることを誓って、魔道師に父や夫などに呪いをかけてもらいに来るのだ。

その組織を組んだ女性たちも、それぞれ辛い思いをし、表向きでは仲良くないふりをしつつ、第二王子妃もその中に入っていた。
王子にばれかけるが、妃の機転でなんとかばれずに済む。

「黒蓮華」

暗殺を請け負う魔道師。コンスル人を殺すのに何の良心の呵責もない。
というのは、彼はコンスル帝国によって滅ぼされたガライルの民の、唯一の生き残りだったのだ。

ある時、まさに自分の母親や兄弟を殺した男、アブリウスが、男が住む町に赴任してきた。
これは格好なチャンスだということで復讐を始める。
少しずつアブリウスに死の恐怖を味わわせ、最終的には殺すことに成功するのだが、同時に自分も闇に食われて霧散してしまう。

復讐をとげてすっきりすることはないが、アブリウスの子供たちが身分をひけらかすことのない割といい人たちで、最終的にひっそりと兄妹で薬屋を始め、穏やかな生活が営んだというのはほっとした。

「魔道写本師」

こちらは「夜の写本師」の前の話っぽい。

イスルイールという写本師が、自分の弟ヨウデウスに偶然出会うところから始まる。
何年も会っていなかったのに、イスルイールがまったく歳をとっていないことにびっくりするヨウデウス。そこで写本師でも”夜の写本師”だということを読者は知るのである。
そして、イスルイールの過去も複雑なものであったことも語られる。

ヨウデウスとその甥が、イスルイールの家で歓待を受け去った後、イスルイールの家に何者かが襲撃してくる。
イスルイールは預かっている少女ナイナと共に身を隠していたが、家に火までつけられてしまう。
それを仕掛けたのは魔道師で、イスルイールは対決することになる。ナイナは実は竜で、魔道師こそ竜を孵化させ育てた本人だった。竜のおかげで力を得た魔道師は、竜が巣立つのを邪魔立てしていた。龍であるナイナはなんとか逃げたが、それを取り返そうと魔道師が襲ったというわけだ。
結局イスルイールが勝ち、ナイナは巣立つことができる。

最後の話がちょっとまとまりがなく、むしろ長編で読みたかったというものだった。
イスルイールの過去の話、ナイナの話、ヨウデウスが連れてきた甥の話、と割と盛沢山で、ちょっと残念だった。

シリーズを通して、滅ぼされる民というのが結構出てくる。
日本において、そういった歴史はあまりフィーチャーされないので、そういう意味でもこのシリーズはユニークなのかなと思う。
ちなみに、読んでいると、ちょっとコンスル帝国がローマ帝国に感じるのだが、どうだろう…?


乾石智子「オーリエラントの魔道師たち」2013年 東京創元社

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