2021年初読了:ホメロス「オデュッセイア(上)」


ターナーの「ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス」についてレポートを書くことになったものの、このシーンについて詳細が書かれている解説がなかったので、本を読むことに。
そしたらレポートのため云々を別にして、めちゃくちゃ面白かった。

元々ギリシャ神話は好きだから(というほど詳しくは知らないけど)、物語として面白いんだろうなというのは予測していたけれども、ギリシャ神話を物語として語り直されたものとは違い、ホメロスの表現も当たり前ながら翻訳されているものだから、そういった今にはない表現方法が面白かった。

例えば、「翼ある言葉をかける」という表現がよく使われるのだが、言葉に翼が生えているってなかなかお目にかからない表現。解説によると、ホメロス独得の枕詞で、解釈は2つに分かれるらしい。
本訳のように「翼ある」とした場合は、言葉を取りに例えたことになるし、もう1つの解釈として「羽根のついた」として、矢になぞらえたという説も有力らしい。
いずれにしても、”速い”ということが含意されている、というのは同じではあるけれども、矢ととる後者の場合は、羽根を具えて的確に的に当たる、ということも暗示されていると解釈もされているらしい(訳者の方は「いかがなものか」と疑問を呈しているけども)

女神アテネに対しての枕詞的に使われている「眼光輝く女神アテネ」というのも、少女漫画でよくある瞳に星が散りばめられているのを想像して、こういったところは時代や国を越えて一緒なのかな…と思った。
同じといえば、空腹について語るオデュッセウスの言葉に同意しかなくて、表現が秀逸と思ってしまったので引用;

…(注略)…これまで耐えてきた苦しみを悉く数え上げれば、もっともっと苦難の数々をお話しすることもできましょう。しかし今は、しばし悩みを忘れて食事することをお許しいただきたい。じっさい、このいまいましい胃の腑より厚顔無恥なものはありますまい。いかに疲労困憊しておろうと、いかに悲しみを胸に抱いていようと、自分のことを忘れるでないぞと強引に迫ってきます。今のわたくしもその例に洩れず、胸は悲しみに満ちておりますのに、胃の腑めは食え飲めとしつこく責めますし、わたくしはこれまで蒙った苦労を忘れさせ、ひたすら自分をいっぱいに満たせと申します。(p180)

以下、上巻のあらすじを;


トロイ戦争の後、オデュッセウスは故郷に帰れず、女神カリュプソの岩屋に引き留められていた。
それはポセイダオン(ポセイドン)の怒りをかったためで、その理由というのが、ポセイダオンの息子、ポリュペモスの眼をつぶしたから(ターナーの絵の題材がこの話のシーン)であった。
ポセイダオンが不在のなか、オリュンポスの神々がゼウスの家での宴を行っている時に、ゼウスの娘、アテネがゼウスにオデュッセウスを故郷に返してあげないか、と話をもちかける。ゼウスはそれに賛同して、アテネは動き出す。

カリュプソのもとへはヘルメイアス(ヘルメス)に行かせ、自分はオデュッセウスの故郷、イタケに行ってオデュッセウスの息子、テレマコスを激励することにする。
というのが、オデュッセウスが不在であるため、その妻ペネロペイアに求婚する人たちでオデュッセウスの城はあふれており、ペネロペイアはペネロペイアで、泣き暮らし、かといって求婚者を無碍にしたにものだが、求婚者は勝手にオデュッセウスの財産を食い潰していたのだ。テレマコスはまだ若く、求婚者に対してどうすることもできずに手をこまねく状態。
そこへアテネがやってきて、テレマコスに勇気を与えるため、オデュッセウスの消息を訪ねる旅をさせる。

一方、ヘルメイアスはカリュプソの元へ行き、オリュンポスで決まったことを伝える。
カリュプソはオデュッセウスが筏を作るのを手伝い、食べ物・飲み物・着る物などを持たせて出発させる。

海に出ると、ポセイダオンが怒りをぶつけてきて、また波に翻弄されることになるが、アテネの助けによりパイエケス人の国へとたどりつく。

それに先回りして、アテネはパイエケス人の王アルキノオスの娘、王女ナウシカア(ナウシカ!)の夢枕にたって、次の日に衣類を洗濯しに川へ行くように促す。
かくして、ポセイダオンによって衣類まで流されたオデュッセウスは、ナウシカアと出会い、服ももらい、ナウシカアのはからいでアルキノオスの城までたどり着くのだった(その途中にアテネの助力もある)。

最初、オデュッセウスは名前を名乗ることもしないのだが、トロイア戦争の様子を楽人が歌うのを聞いてこっそり涙しているオデュッセウスを見て、アルキノオス王はなんとなく当たりをつける。
そしてアルキノオスの質問によって、オデュッセウスは名乗り、トロイア戦争後の漂流について語りだすのだった。

トロイエから出て、まずキコネス族の町、イスマロスに着いた一行。
町を陥落し、男達を殺し、女房たちや莫大な財物を捕獲したオデュッセウスは、公平に戦友たちに分配した。
足早に引き上げようとしたら、仲間たちが言うことを聞かず、酒を飲み、羊や牛を屠るしまつ。
そうこうしているうちに、キコネス人が、同族のキコネス人のもとへ助けを求め、陥落したキコネス人よりも数も多く力も強い彼らがオデュッセウスたちを襲う。
何人か仲間を亡くし出航すると、今度はゼウスが嵐を起こす。

9日間漂流のすえ、ロートパゴイ族の国に上陸。
数名を偵察にやると、ロートパゴイ人は殺したりすることはなく、むしろロートスを食べさせてくれた。
しかしこのロートス、非常に美味で、食べてしまうと復命する気も帰還する気も消え失せて、ロートパゴイ人の元に住み着きたい、帰国なんでどうでもいい、という気持ちになってしまう。

オデュッセウスは、泣き叫ぶ仲間を無理やり船に連れ帰り、縛り付けて、さっさと島を後にする。

次にキュクロプス族という巨大な怪物の国に到着。
今度はオデュッセウス自らが、数名の供を連れて探りに行く。
洞穴を見つけるが主はおらず子羊と仔山羊、チーズがあるだけ。ここでオデュッセウスは仲間の反対を押し切り、主を見たいがために待ち伏せする。
するとキュクロプス族のポリュペモスが羊と山羊を連れて帰って来て、洞穴の入り口を巨大な岩で閉じてしまう。
そしてオデュッセウスたちを見つけ、色々探るがオデュッセウスは巧みに回答を避ける。すると、ポリュペモスは仲間を食べてしまうのだった。

次の日、策を講じたオデュッセウスは、ポリュペモスが帰ってくると、持参した酒を勧める。そして自分の名前は「ウーティス(誰もおらぬ)」だと告げる。
酔っ払って寝てしまったのを確認すると、オデュッセウスと仲間はあらかじめ用意していた丸太を熱すると、ポリュペモスの一つ眼に突き刺す。ポリュペモスの悲鳴で駆け付けたキュクロプス人に、ポリュペモスは「私を殺そうとしているものは”誰もおらぬ”」と答えるので、キュクロプス人たちは帰ってしまった。

次の日、ポリュペモスは目が見えないまま、羊と山羊を連れて外に出るが、実はその中にオデュッセウスたちは紛れ込んでいた。
外に出たらオデュッセウスたちは船へ戻り、慌てて出航する。

大声で呼べば聞こえるほどの距離まで離れると、ポリュペモスに呼びかけ嘲るのであった。しかも、仲間たちが殺されて怒り狂っていたオデュッセウスは、生存した仲間たちの制止をふりきり、自分の本当の名前まで言ってしまう。
それでポリュペモスは、自分の父親であるポセイダオンに、オデュッセウスを無事に帰国させないよう祈願するのであった。

その後、アイオリエの島に到着する。ここは風の神、アイオロスの島であった。
オデュッセウスは歓待を受け、土産に様々な風が入った革袋をもらう。
しかし、オデュッセウスが寝ている間に、金銀を独り占めしようとしているのではないかと不信感をもった仲間たちが開けてしまう。

そうしてアイオロスの元に戻ってしまったオデュッセウスは、事情を説明して災厄から救ってくれるよう願うのだが、アイオロスは怒ってオデュッセウスを追い出してしまう。

風もなくなり漕がなくてはいけなくなった一行。
ライストリュゴネ族の住む、テレピュロスという町に着く。
偵察を送り込むが、そこも人を食らう種族で、オデュッセウスたちは襲われる。
命からがら逃げるが、その途中に何人も殺されてしまうのだった。
次にたどり着いたのがキルケの住む島だった。

オデュッセウスたちは二手に分かれて偵察するが、オデュッセウスではない方の組がキルケに誘われ中に入り、豚に変えられてしまう。
一人隠れて豚に変えられなかった部下に顛末を聞くと、残り人たちを船に残し、オデュッセウスは1人キルケの元へ行く。
ヘルメイアスの力を借りて豚に変えられなかったオデュッセウスに驚いたキルケに、ヘルメイアスが助言した通り、豚に変えられた仲間を返してもらい、精気は取らないと約束させたうえでキルケに誘われるまま閨に入る。

そして仲間たち含め、何不自由もない生活をしているうちに1年が経ってしまった。
仲間たちの促しによって、オデュッセウスはキルケに帰国を願い出る。
キルケはその前に冥王とペルセポネイアの館へ行き、予言者テイレシアスの霊に行先のことを聞きなさいと言う。
テイレシアスに帰国のこと、帰国後のことを聞き、また留守中に亡くなった母親から今のイタケの状況を聞く。更には様々な過去の女性・男性(ミノス王とか)の霊とも出会う。

さて再びキルケの館に戻って、キルケからセイレンについての忠告などを聞き出航する。
セイレンの島を無事に通り過ぎ、問題の麗しい島に到着した。
テイレシアスの予言では、この島で何もしなければ無事、仲間と共に帰国できるが、仲間が狼藉を働いた場合、オデュッセウスは帰国できるものの部下をすべて失くし、無様な様子で帰国することになるという。
それを仲間たちにも話して、島を素通りしようとするとが、一人が猛反対し、押し切られる形で、ただし島の牛などを屠らないと誓わせて上陸する。

しばらくはキルケが持たせた食料やワインがあったため牛などの誘惑には負けなかったが、海が荒れ、出航できない日々が続くと食料も底を尽きてくる。
オデュッセウスは神々に帰国させてくれるよう祈るが、神々は逆にオデュッセウスを眠らせてしまう。
そのすきに部下の一人が他の仲間をたきつけ、牛を屠ってしまうのだった。オデュッセウスの願い空しく、一行が出航すると嵐が吹き荒れ、オデュッセウスのみがカリュプソの元へたどり着けたのだった。

島から島へと行くたびにイベントが襲ってくるというこの物語は、以降の冒険譚の源泉だなと思わせた。
しかしそれよりも、神々の助け方、もしくは罰し方というのがなかなか面白く、特に直接的に助けたり嵐を起こしたりするだけではなくて、回り道して助けるのは新鮮だった。


ホメロス 「オデュッセイア(上)」 松平千秋訳 1994年 岩波書店

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