源吉の方言がなんか嘘っぽい

葉室麟 「蜩ノ記」 平成23年 祥伝社


私にしては珍しく旬な本、直木賞受賞作の「蜩ノ記」。
切腹が決まっている侍、という設定に魅かれて予約してみたら、割と早く順番が回ってきた。
後がつかえているのもあってさくさく読んだのだが、本当に残念ながら面白くなかった…。
正直、なんで直木賞取ったんだろう?と思ってしまうくらい。
まぁ、三浦しをんさんが“まほろば”で直木賞取ったのもなぜ?(こちらは他の本でもっと面白いのがあるのに、という意味)と思ったのだから、直木賞というのはただの目安にしかならないのかもしれないが。
何はともあれ、とりあえず物語が浅い。
本書の重要キーワードとして“命”が挙げられると思うが、それにしても登場人物が薄っぺらいから、その命に重さを感じない。
ちょっと言い過ぎかもしれないけれども、楽しみにしていた分がっかりが大きかった。


主人公で祐筆を勤める庄三郎はふとしたきっかけで、城内で刃傷沙汰を犯してしまう。
幼馴染で気心が知れている仲だったのに、たまたま相手の虫の居所が悪く喧嘩になってしまい、必死でとどめていたのに思わず抜き身を引いてしまったのだ。
そのおかげで相手は足が不自由になってしまった。それだけでなく、その相手とはご家老の甥っこだったのだ。
相手が仕掛けたということもあって、切腹は免れたものの、そのまま日常が送られることもなく。
命ぜられたのが、三年後切腹することになっていて、今は幽閉の身となっている戸田秋谷を監視しろ、というものだった。
この秋谷というのは、七年前に正室と側室の権力争いに巻き込まれ、側室が殺されそうになったところを間一髪で助けた。が、その側室を寵愛していた殿様が、逃げた際に一晩泊まったということに引っかかって、側室と密通し、それに気付いたお小姓を切り捨てた、という罪に問われてしまう(実際はそのお小姓こそが裏切り者だった)。
ただし家譜編纂の仕事をする十年間は幽閉とし、その後に切腹せよ、というお申し付けだった。
その殿様は亡くなり、今はその息子の統治となっているが、帳消しになることもなく、今も編纂を続けている。
庄三郎のミッションは、表向きは清書をすることだったが、本当の仕事は秋谷が逃げ出さないように見張ることと、何を書いているのかを見ることだった。
秋谷の家で住むことになった庄三郎だが、秋谷の人柄にすっかり惚れこんでしまう。
秋谷には病弱の妻、娘とまだ元服前の息子がいた。
元々郡奉行であった秋谷は、その村の人びとにも大変好かれていた。
なんとかして秋谷を助けたい庄三郎。
村では一揆がおきそうな不穏な空気が漂い、農民からしぼりとろうとしている商人が殺されたり、郡奉行が殺されたりする。
そして編纂のために調べていく内に、ご家老と正室の秘密が分かってくる。
謎があったり、不穏な空気があったり、と面白そうな要素があるのになんだか読むのが進まなかった。
秋谷の息子が農民の子と仲がいいのだが、この農民の子が大変できた子。とんだ父親を持ってしまったこともあって、侍に目を付けられ、ついでにそいつが秋谷を失脚するためにやってきたものだから、秋谷の息子が仲がいいんだろう?などと、秋谷にとって不利なことを言わせようとする。
しかし健気にも口は一切割らないので、結局責苦にあって死んでしまうのだった。
それに憤った息子はご家老に一矢を報いに行き、それに庄三郎はお供する。
二人は捕まってしまうのだが、そこに現れたのが秋谷。
幽閉の禁を犯し二人を連れ戻しに来たのだった。
結局その行動というのが、そのご家老いわく

「われらは源吉なる向山村の百姓の子を死なせてしもうた。本来ならば、わしが責めを負わねばならぬところを、秋谷はわしに代わって源吉に詫びるため切腹いたすのだ。なればこそ、向山村の百姓たちも秋谷の心を慮り、一揆を思い止まったのであろう」(p324)

ということらしいが、あまり説得力がない。
多分、ご家老=悪者、秋谷=良い者、百姓=虐げられる人、源吉=被害者、という役目があんまりきっぱりしすぎて、型にはまった感が強すぎるので、人物に現実味を感じないのだと思う。
特に源吉。あまりにいい子すぎて、なんだかなぁという感じ。
最終的に秋谷が助かることもなく切腹となったのは良かったと思うけれども、とりあえず薄い話だったな、というのが私の抱いた印象だった。

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