本気でこの主人公の行方を知りたい:大西巨人「深淵 下」

嫌気がさしてくる前に!ということで2日で読み終えた「深淵 下」。
文体に慣れてきたのか、「上」よりは若干楽しめたのではないかと思います。

「下」ではあた麻田は事件に巻き込まれます。今度は空白の12年間に関する事件でした。

話の発端は、東京にて見知らぬ人に「秋山君(「上」にて病院で目覚めたときの名前)」と呼びとめられたのが始まりでした。呼び止めた人は、麻田が12年間小瀬亜wになっていたところの甥だったのです。彼に事情を話すことによって、12年間の性格に深く関わった人たちと連絡がつくようになるわけです。

今回の事件も殺人事件で、弁護側からアリバイのための立証を頼まれます。被告人は記者で、その事件の夜には秋山にインタビューしていた、というのです。

そこで、それのためと、記憶回復の為に、その土地へ行き、12年間お世話になっていた丹生持節と双葉子の元で世話になることになりますが、なかなか記憶が回復しません。

そして今回の事件の被告人は、どうやら実刑に値し、もしかしたら秋山(麻田)の記憶喪失を知っての上での要請、という可能性もなきにしもあらず、といった感じなのです。

結果的に言うと、麻田は記憶を取り戻します。それは双葉子が発した「おみおつけ」という発音を聞いて、秋山として彼女と深い仲にあったことも含めた、12年間の記憶がよみがえるのです。

ついでに記者のアリバイを崩す実証も明かします。

事件が終わって残った問題は、どちらの生活をとるか、ということでした。

一旦東京に戻り、妻を始めとした親戚・知人にことの顛末を語り、裁判からまた出頭要請が来るかもしれない、ということで双葉子の家に戻ることにしました。ところが、そこで途中下車をしたきり、また麻田の行方が分からなくなってしまいます。

そこで話が終わりなのです!!!!!!!!!!

そりゃあ、どっちの女の人をとるかって大きな問題だし、どちらをとっても腑に落ちない気分になるかもしれませんが、それはないでしょ!!?って感じでした。

そして最後の最後までレポート口調。たとえば、最後の方で、双葉子と琴絵が会うのですが、その劇的にもなりえる描写が;

 やがて、会話が、二人の上に復活した。その内容は、ある意味においては「変哲もない」ようなもの――宝満界隈の風光・人情・風俗・沿革などの概要(決して際どくはない遣り取り)――に終始した。一つだけ、次ぎのごとき具体的な提案ないし相談ないし予約を、琴絵が、双葉子に持ちかけた。
[1]目下の差し戻し裁判が終結した時期にも、なおまだ麻田布満=秋山信馬の所在・消息が不明の場合は、
[2]「自分[崎村静雄]は、是非とも宝満城址・虚空ケ丘に行きたい。そして、あなた[双葉子]にも、お会いしたい。」というのが、崎村静雄の強い希望である。
[3]むろん、その節には、改めて御相談することになるが、いまここで、あなたの「原則的な承諾」が得られると、幸甚である。
 双葉子は、「原則的に承諾」した。
 このような経過のたお、琴絵と双葉子の二人は、また双葉子の運転で、海濱学舎に戻った。
 その日の夕食を、琴絵は、丹生宅で呼ばれることになっていた。哲彦も、来る予定。

p302

う~~ん

もっと時間が経ってまた読んでみたら、違う感想を持つのでしょうか?何年か後に読んでみようかと思います。

(大西巨人 「深淵 下巻」 光文社 2004年)

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