秘密結社ものはやっぱ面白いな:コナン=ドイル 「恐怖の谷」


ホームズは短編が多いけれども、長編の方が私は好きだと改めて認識させた「恐怖の谷」。
長編の何がいいって、事件の発端となるような挿話が入っていて、その冒険譚的な話が非常に面白い。ホームズが全然出て来ないところで面白いというのもなんだと思うけど…
今回の「恐怖の谷」もご多分に漏れず、わくわくするような内容だった。

事件自体は、暗号文とクローズドサークルという、なかなかしっかりした事件となっている。
因みに黒幕はモリアーティ教授ということになっているので、ホームズとモリアーティ教授の対決の前だということが分かる。
「最後の事件」で、モリアーティ教授という名前が唐突に出てきて、ワトスンも知らなかった設定だったのに、「恐怖の谷」ではワトスンもよく知っているではないか、という矛盾があるけれども、まぁそれは目を瞑ることにしよう。
というかモリアーティ教授を無駄に出さない方が面白い気がしないでもないけれども、モリアーティがいないと暗号もなかったししょうがなかったのかな。。。

(以下ネタバレ注意)

物語は上記にあるように、ホームズが暗号をもらうところから始まる。
モリアーティ一味の者から、ホームズへ密告が来るようになっているのだ。
それによると“ダグラス”という男に危険が迫っているらしい。するとマクドナルド警部がやってきて、サセックス州にて奇怪な事件が起きたので助けてほしいと言われる。
なんとそこで起きた殺人の被害者の名前がジャック・ダグラスだというのだ。

さてダグラスはアメリカに住んだことあり、そこでひと山あててイギリスに戻ってきた者だった。
そこで今の夫人に出会い結婚し、サセックス州の古い邸に住んでいる。
その邸は二重の堀があり、外堀はもう水はないが、内堀は浅瀬ながらも水がある。
ダグラス氏は昔からの慣習に習って、毎晩跳ね橋を上げてしまう。
事件があった夜、アメリカ時代の友達セシル=バーカーが遊びに来ていた。彼は何度も邸に遊びに来ていて、夫人も含めて仲がいい。

事件は、夫婦が別れてから2・3分経たない内に起きた。
突然の銃声にバーカーが駆け付けると頭をショットガンで撃ち抜かれた無惨なダグラスが。
夫人には刺激的すぎるということで、執事とメイドを呼び、メイドに夫人を預ける。
カーテンの裏には泥のついた足跡、窓枠には血の付いた足跡がある。
そして奇妙なメモが残っていた。

ホームズ一向が調査にやってくると、どうもダグラス夫人とバーカー氏がおかしい。
まず、ダグラス夫人はそこまで哀しんでいない。おまけにバーカー氏と笑っているシーンをワトスンは見てしまう。

真相はというと、実はダグラス氏は死んでいなかったのだった。
バーカーと出会うずっと以前にしたことで、ずっと命を狙われていたダグラス氏。
サセックスの田舎でひっそり暮らしていたのに、遂に敵に見つかってしまう。
もみ合っている内に相手の持っていたショットガンで、敵方が死んでしまった。
そこでふと思いついたのが、他の敵を欺くために自分が死んだことにしてしまえ、ということだった。
(よく考えるとシャーロック・ホームズも同じ手を使ったな)

この後にダグラス氏が何故逃げていたのか、という話になる。
アメリカ中にある友愛会。互いに助け合うという会なのだが、バーミッサ谷という炭鉱の町では事情が違った。
殺人の軍団となっていたのだ。

そこへシカゴからマックマードという男がやってくる。
どうやらシカゴで相当悪い事をして来たようだった。シカゴ支部の友愛会の会員だった彼は、バーミッサ谷のボス・マッギンティに会いに行く。
彼こそ悪の親玉みたいな人だったのだが、すぐにマックマードは気に入られる。
人柄や大胆さ、腕っ節の強さなどなどを買われ、どんどん地位を高めていく。

そんな折に、気弱な会員にこっそりとこの支部の終わりが近付いている、と告げられる。なんでも彼の友達から連絡が来て、ピンカートン探偵社の腕利きバーディ=エディースが捜査に乗りだしたという情報が寄せられたというのだ。
その気弱な会員は、これを告げれば探偵が殺されるだろうから自分の罪に苛むことになるし、だからといってこのままだと自分の身の破滅が待ってると思うと参ってしまったのだ。
マックマードは“ここは任せておけ”と請け負うと、自分が受けた情報として幹部に報告する。
そして一計を講じて、その探偵を自分の家におびき寄せるので、皆で待ち伏せして殺そう、ということになる。

ところが…このマックマードこそがバーディ=エディースだったのだ!!!
そんな訳でマッギンディは絞首刑となる。が、他の幹部は絞首刑にならず、以来マックマードは命を狙われることになるのだった。

こうして一味の一人も殺し、自分も死んだことにしたし助かった、と思ったダグラス氏だが、ホームズは危惧していた。
何せモリアーティが絡んでいるのだ。
そしてホームズが心配していた通り、ホームズの助言で国外に逃げる途中にダグラス氏は死んでしまう。
ところで、本書でちょっと印象的だったシーンが。

(ホームズが調査から夜遅く帰ってきたシーンで)
わたしはすでに眠っていたが、ホームズがはいってきた気配で、ふと目をさました。
 わたしは小声でいった。
「やあ、ホームズ。なにかわかったかい?」
 ホームズは、ろうそくを持って、だまったまま、わたしのまくらもとに立っていた。やがて、ひょろ長いからだを、わたしのほうにかがめると、耳もとでささやいた。
「ねえ、ワトスン、きみは、頭がおかしくなってしまった男とか、正気をうしなったばかとか、そんな男といっしょの部屋に眠るのは、いやじゃないかい?」
「そんなこと、ちっともかまわないよ」
 わたしは、あっけにとられて答えた。
「やあ、そいつはありがたい。」(p148)

なんだこの意味深な会話は!?しかも次の日、別にホームズが奇行に走ることもなかったし…。コカインを散々ワトスンの前で打っときながら、今更出ないかい?ホームズ。
とはいえ、ワトスンとホームズの親交具合がよくわかっていいシーンだけどね。


コナン=ドイル 「恐怖の谷」 内田庶・訳 1985年 偕成社

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