卒論のための襖絵探訪

私の卒論のテーマは江戸初期の襖絵です。

日本美術の場合は、本物を見に行くのが鉄則みたいですが、私が取り上げようとしている襖絵は通常公開はしておらず…

先生からのアドバイスもあって、同じ時期・同じ流派の襖絵を見に行こう!ということで、先週末京都に行ってきました。
自分用のメモも兼ね…

大覚寺

取り上げようとしている襖絵を同じ作者、狩野山楽の襖絵があるということで、まずは嵐山にある大覚寺へ。

残念ながら本物は一般公開されていませんでしたが、複製が実際の部屋にあったので雰囲気は感じられました。

まず「牡丹図」。一番大きな部屋に大輪の牡丹が描かれています。サイズはかなり大きいけれども、部屋が大きいため威圧感はなく、華やかな印象。
描かれている岩も相まって、優美というよりも、華麗という印象に近い。

もう一つが「紅白梅図」。山楽の襖絵の左右には、別の絵師の手による柳図があり、「牡丹図」のような連続した襖絵でないことから、ちょっと見劣りしたように感じました。
華やかに横へと展開していく「紅白梅図」。今の姿が当初の姿のままなのか分かりませんが、分断されたように柳の絵があるのが、ちょっと惜しい気がしました。

研究のテーマとして、金地がどのような印象を与えるのかも見たかったので、複製というのは少々残念でした。

二条城

狩野山楽と同じ狩野派、しかも活躍年代がかぶる狩野探幽の作品です。

こちらも複製。大覚寺と違って写真が撮れないのが残念…

徳川幕府の威信を体現するための場なので、それ相応のモチーフがあしらわれています。

入ってすぐの遠侍一の間、二の間、三の間は竹に虎。
竹は長押も突き抜けて天井まで描かれ、襖には襖の半分ほどの大きさの虎が描かれ、威圧感があります。とはいえ、こちらはまだ、虎が遊んでいたり、子供に乳を与えたり、また空白もあるので、圧迫感は少ないかと思います。

更に入った大広間では、巨大松が、こちらも長押をつきやぶって上へ、そして横にも枝を伸ばし、そこにまた巨大な鷹が止まっていて、威圧感がぐっと増します。
特に大広間一の間、二の間では大政奉還の再現が人形でなされているのでイメージがつきやすかったのですが、家臣たちが座る二の間において、松が取り囲むように描かれ、その圧迫感たるや、そこに座ったら委縮してしまうのも頷ける気がしました。
まさに、障壁画によって場を作る良い例と言えるでしょう。

それが、限定的な人しか入れなかった黒書院一の間、二の間では、威圧感が減ります。
梅や桜といった華やかなものも入り、大広間で受けた厳格なイメージが若干下がります。
長押の上は、まったく異なったモチーフが描かれ水墨画なので、そういう意味でも威圧感が減っています。
ただし、将軍が座る一の間に松が描かれていたりするので、”公式の場”というイメージは保たれたままでした。

個人的に興味深かったのは黒書院四の間。垣根でぐるっと囲まれた意匠なのが興味深かったですし、自分の研究対象の襖絵に一番近い雰囲気だったので比較対象になるかな…と思いました。

悔やまれるのが…二条城の公式本を買わなかったこと!!!不覚!!!土産物屋さんでも目に入らず、まさか公式本が出ているとは思わなかったよー!!!
京都総合観光案内所(京なび)や京都市河原町三条観光情報コーナーで売られているみたいだから、今度京都に行った時に買おう!

南禅寺

こちらも狩野探幽と山楽の襖絵。どちらも元々は違うところにあったのが、江戸初期に下賜されたということ。

こちらも複製で、本物は見れず。

正直なところ…思ったよりも小さく、しかも暗くてよく見えなかった…

一つの部屋の空間演出としての襖絵を見たいところ、同じ部屋に違うテーマの襖絵、というのが大半だったため興味の対象ではないな、というのと、研究対象となる襖絵が草花図なので、虎や麝香猫といった動物メインなのもちょっと違うな…ということで、あまり印象ないです…

今度、純粋に南禅寺に来たら三門に昇って石川五右衛門ごっこをしたいなーなんて

妙蓮寺

ちょっと時代があがって、しかも狩野派ではないけれども、特別拝観で長谷川等伯の襖絵が公開されているから、ということで行ったところ…最高に良かった!!!!!!!

本物がめちゃくちゃ間近で見られるという贅沢が味わえた!!!!!!!!!!

しかも自然光で!!!!!!!!

剥落や色落ちしてしまったりしているけれども、当時、どれくらいあでやかに、そして金がちろちろと輝いて見えたのが想像できる!

何よりも、金雲が複雑な遠近構成になっているのがよく分かって、本当に有意義な訪問となりました。

大覚寺 聚光院

こちらも特別拝観で、狩野永徳の作品が見れる、ということで行かないわけがない。

が…妙蓮寺を見た後だったので、ちょっと感動が薄れてしまいました。残念。

知ってはいたけれども金碧画ではないというのも、ちょっと研究テーマから外れるんだよね…と思いつつ。狩野永徳だから見ないなんてありえない!と思っていたけれども、ちょっとあてが外れた感は否めない。

妙蓮寺の前に見ていたら、また印象が違ったかもだけども…残念…

残念とばかり言っててもしょうがないので、もうちょっと発見を述べると。

永徳の一番弟子で、永徳の作風を一番濃く受け継いだといわれる山楽の、先に見た大覚寺の「紅白梅図」と比べてみると…
本とかで書かれている通り、この「紅白梅図」の方が優美さが出ていました。
永徳の「四季花鳥図」に描かれている梅は、根は地面をがっしりとつかみ、枝はいったん下にさがったのがぐいっと持ち上がったり、上へねじあがったりして、優美というよりは力強さ、勢いを感じます。
それに対して、山楽の「紅白梅図」は根元が岩で隠れていて、枝も不自然な捩り上がりがなく、穏やかに横へ横へと広がっていました。岩というと優美から離れそうですが、永徳のがしっとつかんだ根よりも自然さが増していました。

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