実は最後の最後まで少游に裏設定があると思っていた:森福都「漆黒泉」

借りる本が見つからなかったので、前に三浦しをんさんのエッセイで紹介されていて面白かった本と同じ作者の本を借りてみました。

そしたら、この「漆黒泉」、想像しているよりも全然面白かった!もともと中国の歴史物が結構好きだったのですが、それに謎みたいのもあって、ちょっと推理小説めいていたところもあって、二倍においしい。

主人公の芳娥は背の高い女の子。小さい時に奉元先生にそう予言され、慌てた父の手回しにより、王安石の息子、王雱の許婚になるのでした。その時、芳娥は8歳、王雱は33歳。しかし、その後すぐに王雱は死んでしまいます。そうこうしているうちに、王安石も政界から退き、王安石が築き上げ、王雱が心血を注いで実践にこぎつげた新法が崩れかけようとしていました。

芳娥は17歳となり、新法を妨害している司馬公を暗殺しようと、まず隠居している王安石の元に訪ねます。そこで養子分で王雱とそっくりな少游がついていくことになり、二人は開封へとたどり着きます。

そこではかつて王安石の元で活躍していた奉元先生(少游を呼んだのは奉元先生だった)と合流して、先生より王雱は暗殺された、と聞きます。先生は白茅香という毒のお香をもって殺されたというのです。

その容疑がかかっているのが司馬公。彼を捕まえようと画策していく中、そのお香を発明したレン丹師の下で働いていたことのある建弘や、看板女優の月英と出会います。

月英は王雱の愛人であったが許婚が出来たころから冷たくされていたり、建弘が王雱に可愛がられていたが、死後にそれは彼が西夏の人間だったからだったと分かったり、と各々王雱には恨みがありました。しかし、それは胸に隠しつつ、司馬公に会おうとする三人に協力するのでした。

奉元先生はというと、王雱が見つけたという漆黒泉に興味津々。

それぞれの思惑によって旅が始まるわけですが、最大の謎は「誰が王雱を殺したのか」ということでした。次々にあがる容疑者。上がるたびに打ち消されていき…

どんどん王雱のイメージが悪くなっていくのが切なかったです。

最終的に、あなたはロリコンだったのですか…という感じだったし。でも嫌いになりきれないのは、もう死んでしまったからなのか。それとも、それでもやはり恨まれるくらい好かれているからか。やっぱり、最初の印象のよさがものを言う気がします。なにしろ容貌は

 目鼻立ちの優れた、涼やかな容貌だと思った。奥に透明な光をたたえた切れ長の目と、口角がわずかに上がった薄い唇がとりわけ美しかった。

p7

そして恬淡と「限りがあるほう、何事も美しく楽しい」なんて言う。名乗る時もかっこいい

 男の目尻に初めて優しげな皺が刻まれ、白い歯が少しだけのぞいた。
「王雱、字は元澤」

p9

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