九州ではないけれど、白いたんぽぽなんてよく見つけたぞ:加納朋子 「ななつのこ」


図書館でぶらぶらしている時に、偶然に見付けた加納朋子の名前。
どっかで見たことあるな…と思っていたら「インディゴの夜」の人だ!と思ったけれども、後から勘違いだということに気付く…
その誤解のまま借り、読んでみたところ

これで鮎川哲也賞を受賞したらしいのだが、なかなか面白い趣向になっている。
「ななつのこ」というのは、主人公の女子大生・駒子が大変気に行った本のタイトルそのものなのだが、あまりに好きで作者にファンレターを書くのがそもそものきっかけ。

駒子の『ななつのこ』の内容は、主人公のはやて少年が、村で起きるちょっとした不思議なことを、謎のきれいな女の人・あやめさん(はやてが命名)に語り、あやめさんが謎を解くというもの。
それになぞって、駒子もファンレターにちょっと不思議なことを書いて送ったのだが、意外なことにその不思議なことの解答と共に返事が送られてくる。

この「ななつのこ」も『ななつのこ』も連作になっているのだが、駒子がいちいち『ななつのこ』を思い出したり引用したりするものだから、『ななつのこ』に謎ときも、駒子の出来事の謎ときも、読者は二重に楽しむことになっている。
収録されているのは以下の通り(ネタバレ注意!);


“スイカジュースの涙”

そもそもの発端となる話。

『ななつのこ』の内容は、はやて少年の家の畑からスイカが盗まれる。夜、はやて少年はスイカ番をするのだが、昼間両親が見ると、やはり盗まれている。自信喪失になったはやてがあやめさんにその話をすると、昼間に盗まれているのでは?と推理する…という話。

駒子が感心する通り、その話の結末は心温まるもので、はやて少年はあやめさんの助言で、スイカ一つ一つに顔を書くのだ。

駒子はそれになぞって、スイカジュースにまつわる謎を作者・佐伯綾乃さんに提供する。
ある時、血痕がずっと続いているのを見つけるが、同じものを見てるはずの少女たちは「スイカジュースだった」と言う。思い違いだったのか…?という謎を綾乃さんは、駒子が見ていたものと少女たちが見ていたものは違った、と仮定し、誰の血痕だったかも推理する。

“モヤイの鼠”

『ななつのこ』

村のお寺の財宝として金色の鼠がいた。その鼠が動くという噂があったので、はやて少年が夜偲びこむと、なんと鼠がいない!
あやめさんにその話をすると、それは動いたのではなくて和尚さんが売ってしまったのだと推理する。そしてはやてに和尚さんお悪行を暴露する方法を教えるのだった。


「ななつのこ」

友人と一緒に日本画の個展を見にいく。その時にうっかり触ってしまった拍子に、絵具の一部が取れてしまう。ひとまず二人で逃げ去ったのだが、良心の呵責に耐えかねてギャラリーに戻ると、欠けてしまった部分がなくなってしまっていた。不審に思って係りの人に「先ほどと違う絵では?」と問うと邪険にされる。

というのを手紙に書くとその解答としては、絵が逆さまに掛けられていたのではないか?と言う推理だった。駒子たちは憤慨する男の人に出会うのだが、その人こそが画家だったに違いないというのだった。



“一枚の写真”

『ななつのこ』

実は一番好きな話。絵がうまく賢い秋彦君のうちへ、夏休みの宿題を写させてもらおうとはやとたちは押し掛ける。絵の宿題も仕上げようとしたら皆の絵具箱から青の絵具がなくなっていた。空が描けない!と嘆く少年たちに、寝たきりで絵の上手な秋彦くんのおばあちゃんが

『空は青いばかりじゃ、あるまいに…(中略)…
 雨が降っとるときの空は、どんな色?遠くの山の向こうに、お日さんが隠れるときは、どんな色をしている?蛍の火がぽっぽと灯るときには、空は何色をしている?ほうら、考えてごらん』(p109)

と言うのだった。

あやめさんにその話をすると、青色の絵具を盗んだ人こそ秋彦君で、寝たきりになって空が見えなくなったおばあさんのために、天井に空を描くために盗んだんじゃないか?と言う。

秋彦君が空を描いてあげようと思うくらい、空を渇望するおばあさんの言葉だと思うと、『空は青いばかりじゃ、あるまいに』にジーンとくる。


「ななつのこ」

写真の整理をしていた駒子は子どもの頃の写真が一枚ないことに気付く。そんな直後に六年生の頃に転校してきた一美ちゃんから、その抜けていた写真と思しき写真が送られてくる。

綾乃さんが解くには、火事ですべてをなくしてしまったという一美ちゃんの生い立ちより、自分がちらりと写っている駒子の写真を盗んでしまったのではないか?そして今では子供もできて、家族ができたので、新しい“思い出”ができて写真がいらなくなったのではないか?ということだった。

“バス・ストップで”

『ななつのこ』

はやての仲間で水色の蝶々を捕まえた子が出た。図鑑にも載っていないし新種か?と思いきや、またもやあやめさんの華麗な推理で、それは水色の蛾の羽を蝶々の胴体にひっつけた、というものだったと解明される。


「ななつのこ」

大変どんくさい駒子は教習所に通うものの、まったく免許を取ることができない。その教習所のバス停の目の前に米軍基地があるのだが、その手前のフェンスの垣根のところに、お婆さんがしゃがみこんで何やらしているのが眼に映る。

何をしているのだろう…と思って手紙を書くと、なんとお婆さんはフェンスの向こうへ花を植え続けているとのこと。お婆さんの家は昔その中にあって、そこに行くことはできないけど、せめて花で侵入しようとしていたのだった。

“一万二千年後のヴェガ”

『ななつのこ』

歌会で知り合ったお婆さんに恋するお爺さん。求愛の歌を送ったら返事がないので落ち込んでいるところにはやてが通りかかる。このことをあやめさんに伝えると、そのご婦人も返事を送ったのだが、ある事情でどこかに落ちてしまったのでは?という。


「ななつのこ」

涼しさを求めて行ったプラネタリウムで、“バス・ストップにて”で知り合った青年に出会う。
そんな折にプラネタリウムのあるデパートの屋上にあったビニール製の恐竜が、一晩明けたら全然違う場所の幼稚園にあった、というニュースが流れる。

駒子が綾乃さんに送ると、その恐竜の空気にリチウムガスを入れて飛ばしたのでは?という推理が返ってくる。

“白いたんぽぽ”

『ななつのこ』

ガキ大将に強制的におもちゃの拳銃を取られた、という父親の話をあやめさんにするはやて少年。はやて少年の家のあじさいの色が違うところから、おもちゃの拳銃の場所をあてるあやめさん。


「ななつのこ」

友達の要請で、一晩小学校に泊まる、という行事のお手伝いに来た駒子。一人ぽつねんといる少女真雪ちゃんのお世話することになる。小学一年生ということなのだが、複雑な家庭の子らしく、先生はすべての花の色を白に塗る、しかもたんぽぽまで!ということでえらい心配している。

それに反発した駒子はなんとなく仲良くなり、この話を綾乃さんに書きつづる。すると白いたんぽぽが存在するし、その子は自分の名前が大好きだから白色に塗ったのでは?という温かい返信が来る。

“ななつのこ”

『ななつのこ』

悪徳坊主の後にやってきた和尚さんは猫が好き。和尚さんの猫に子供ができたのでもらわれていく。はやとももらうのだが、次の日に子猫がいなくなっていた!

あやめさんに相談すると、その和尚さんの猫にそっと付いて行ってごらん、と言われて実践すると、なんと親猫が子猫たちをさらってそっと育てていたのだった。


「ななつのこ」

プラネタリウムの青年に偶然本屋さんで出逢うと、明日プラネタリウムに来てくれないか?と言われる。するとそこには、真雪ちゃんと美しい女の人がいた。その女の人こそ『ななつのこ』の表紙絵を描いた人で(駒子はそもそも『ななつのこ』の表紙絵に魅かれて買った)真雪ちゃんのお母さんだったのだ。

プラネタリウムが終わり明るくなると真雪ちゃんがいない!
結局見付けたのだが、そのからくりは、プラネタリウムの青年が仕組んだことで、離婚した真雪ちゃんのお母さんとお父さんを復縁させるための工作だった。

それはそれで、まあ想像していた通り、その青年こそが『ななつのこ』の作者であり、駒子に返事を書いていた人だった。
いわく、亡くなったお姉さんが出題編だけ書いており、はやてに自分を、あやめさんをお姉さんに投影して続きを書いたという。

最終的には、駒子とのやりとりも出版されて終わる。

加納朋子 「ななつのこ」 1999年 東京創元社

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