痛がりなので、無痛はいやだけどless痛がいいな:久坂部羊 「無痛」


これまた本交換会で「ジャッカルの日」と交換してもらった「無痛」。
“エログロ”という紹介のされ方だったが、刑法三十九条(心神喪失者による犯罪について)について扱われている、というのと、痛みを感じない人、というのに魅かれて交換してもらった。

一応コメントしておくと、そんなエログロじゃなかったです。

途中まで割と面白かったけれども、最後がちょっと納得いかなかったのが正直な感想。
すっきり終わらなくてもいいけれども、もうちょっとうまくまとめて欲しかったなかな。
ざっとした話はというと、

主人公は人をじっと観察するだけで病状や死期まで分かってしまう医者・為頼。
といっても超自然的なものではなく、ちゃんと理論に基づいているのだが、なんと殺人犯まで分かってしまう。

そんなことで、ひょんなことで知り合ったのが、精神障害児童の施設で臨床心理士をやっている菜見子。
実は、彼女の働く施設の子が、前に起きた一家惨殺事件の犯人だと名乗っていたのだった。
その真意を測りかねた彼女が、為頼に彼女を見てほしいと頼みにきたのだった。

結果としては、彼女は犯人ではないと診断を下すのだが、同時進行で色々な事件が起きる。

まず菜見子は未亡人で、幼い息子に父親は必要だと思い込みお見合いパーディーで知り合った人と結婚するのだが、そいつはとんでもない男ですぐ離婚。でもその男のストーカー行為が続いている。
それと同時に、為頼に近づく大きな病院の院長。彼も為頼と同じように外観で人の病状や死期を判断することができるのだった。

そしてその病院で働く、まったく痛みを感じないイバラ。院長によって普通の人の知能を得ることができたのだが、院長に人体実験のようなものを強いられている。

これらの人が絡み合い、ついには第二の殺人事件が起きることで、一家惨殺事件の犯人が分かるようになる、という構図になっている。

割と厚い本だったのだがするすると読めて、あまり苦にならない厚さだった。
何よりも、菜見子の元旦那のストーカー行為が非常~~~にリアルで迫真の書きっぷりだった。そいつの

 この世を渡るには、特別な切符がいる。それさえあれば、俺ものし上がれる。今からでも遅くない。どこかの医学部にでも入り直そうか。どこかの三流私立医大くらいなら……。いや、私立はだめだ。金がかかる。国公立の医学部は、やはり無理か。それとも、ど田舎の大学なら入れるのではないか。
 医者より弁護士がいいだろうか。俺は口がたつからいいかもしれない。俺なら辣腕弁護士になれる……。いや、法学部からやり直すのは面倒だ。
 いっそのこと、警官になったらどうだろう。警察の試験くらい、簡単にパスするだろう。俺は体格もいいし、腕力もある。拳銃と手錠を自由にできれば、逆らう奴はいないだろう。何といっても国家権力だ。令状を片手に、どんなところにも踏み込んでいける……。
 いや、やっぱり警察は無理だ。素行調査でヤバイことがバレる。逮捕されたらシャレにならない。となると、やっぱり医者か……。

(p229-230)

なんて思考回路。すごいリアルで、こういう考え方する人、いるよね~と思ってしまえる。

「無痛」というタイトルだけに、イバラが重要な役割のはずなのに、こいつばかりが印象的になっていたのが、作者の意図とはちょっと外れてはいやしないか?


久坂部羊 「無痛」 平成20年 幻冬舎

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