3巻はまだ文庫化されていなかった…:上橋菜穂子 「獣の奏者II 王獣編」


これも一気読み。
ただこのレビューを書いているのが、あまりに時間が経ってしまってからの為、ちょっとうろ覚え。
でも却って概略が書けるかも。

エリンはリランに餌をやることができ、その結果、約束通り音無し笛なし・特滋水なしで育てることになる。
エリンは主席で卒業することができたので、そのまま学院に残り教員になる。
リランは他に飼われている王獣とは違って、野生と同じような毛並みを持ち、空も飛べて、ついには妊娠までする。
どう考えても、他の王獣達は音無し笛や特滋水によって野生の力を失くされている。

そんな折に、自分の母方の種族・霧の民からコンタクトがあり、その音無し笛や特滋水、そしてリョザ神王国を統べる真王の秘密を教わるのだった。

一方、リョザ神王国は不穏な空気をまとい続けていて、エリンとリランもその渦に巻き込まれていく。
この話の何が面白いかというと、決してただの少女の成長物語に留まっていないところ。

確かにエリンは成長していくのだが、その過程があまりに過酷だったりする。
まず母親の死。しかも政治的な力により殺されてしまう。
それからリランと心が通ったかと思った途端に手を噛みちぎられてしまう。それによって痛いほど、獣と人間の壁というものを理解するのだが、そんな辛い出来事があったからこその最後のシーンの感動があるのだろう。

 (―知りたくて、知りたくて……)
 エリンは、心の中で、リランに言った。
 おまえの思いを知りたくて、人と獣の狭間にある深い淵の縁に立ち、竪琴の弦を一本一本はじいて音を確かめるように、おまえに語りかけてきた。

(p654-655)

守り人シリーズを読んでも思ったが、作者は人間が作る“政治”というものに大変な感心を持っているだのだな、と思った。
守り人シリーズも、この「獣の奏者」も政治がキーとなって、登場人物の人生に深く関わってくる。
時代の渦を描きながらも、その点となる人間の描写も丹念で、それが絶妙なハーモニーとしかいいようがない。
ファンタジーを通して、人間の真実を描こうとしているような気がする。


上橋菜穂子 「獣の奏者II 王獣編」 2009年 講談社

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