装丁が本書に大変マッチしている:松尾スズキ 「クワイエットルームにようこそ」


溜まりにたまった“読む本リスト”の内より「クワイエットルームにようこそ」。
すでに出所が分からない。
図書館の貸出期限がとうに過ぎた頃に読んだら、薄かったせいもあるがすぐ読み終えた。
さらりと読めるくらいの軽さ。

オーバードーズで精神病院に入ってしまった主人公・明日香。
まったくもってまともなつもりなのに、保護者(彼女の場合は彼氏)の許可がないと出られない明日香。
明日香の過去やオーバードーズに至るまでのことがちょろちょろっと書かれていて(離婚した旦那が自殺したり、彼氏と大喧嘩してお酒飲みながら、昔もらったけど飲まないで、でも捨てるには高いからもったいなくてとっておいた薬をポリポリ食べたなど)、精神病院の人々(機械的にしゃべるむかつくナース、患者の多くが摂食障害)がちょろちょろっと書かれていたりと、そのちょろちょろ具合がいい感じ。

つまりテーマとしては重くなりそうだけど、それがライトに書かれている。ライトというか、淡々とさらりと。
例えばこんな感じ;

 今まで「絶望だ」と思っていた出来事のすべてが、「100均」に並んでいるような安物の絶望に思える。今度こそホンモノ。この孤独のコクの濃さ。密度。いやだ。考えるな。ペラペラの現実の尻尾を、つかめ!つかんで離すな!
 ひゃっひゃひゃひゃひゃあ。
 わたしは一人ぼっちの冷たい部屋で、とうとう笑い出したもんだった。生きてます。わたし、生きてますからああって、泣きながら笑ったもんだった。

(p17-18)

オーバードーズで病院に運ばれて、目が覚めたら拘束されていた、というくだりなのだが、“絶望”の表現がわりとさらっとしてる気がする。

そんな訳で、精神病院・鬱…と重苦しくなりそうなテーマなのに、読了後も気分がローになることがなかった。


松尾スズキ 「クワイエットルームにようこそ」 2005年 文藝春秋

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