国際人ってこういう人のことを言うんだろうな:米原万里 「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」


イタリアに住む友人の家に遊びに行った時に、イタリア語通訳者の田丸公美子の本を貸してもらって大変楽しく読んだ。その田丸公美子の親友の米原万里の本も面白いよ~と言われたのを頭の隅に残したままいたのだが、今日図書館をぷらぷらしていると、オススメ本セレクションに「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」が置いてあったので早速借りて来た。

もう一気読み。

田丸公美子の本が非常に軽かったのでそのノリで読んだのだが、まったく別物だった。むしろ泣ける。
米原万里さんはティーンエージャーの頃、共産党の父親が、各国共産党の理論情報誌『平和と社会主義の諸問題』の編集委員に任命された関係で、編集局のあるチェコスロバキアで過ごす。

そこではチェコの学校ではなく、ソ連が運営するソビエト学校に通うことになるのだが、そこには50カ国以上の生徒たちが集まるところだった。

「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」は表題作以外にも2作あって、それぞれソビエト学校時代に仲良かった友達の回想、それから彼女たちを探し歩く旅が綴られていた。
その友人たちも国際色豊かで、まずはギリシャからの亡命家族の一員であるリッツァ、ルーマニア人のアーニャ、それからユーゴスラビア人のヤ―スナ。

正直、共産主義に関しては無知に近いし、この旧ソ連とその近隣諸国の関係の歴史にもかなり疎い。
ただ漠然と大変なことが起きた、ということしか分かっていないのだが、この動乱をティーンエイジャーの目線で描かれているのを読むと身につまされる思いになった。特にノン・フィクションだと思うと。

3編の話の中で、ユーゴスラビア人のヤ―スナの話「白い都のヤスミンカ」が一番印象的だった。
転校生のヤ―スナと仲良くなるくだりで

 私がヤ―スナに近付きたかったのは、ヤ―スナ自信の魅力もさることながら、もう一つの理由が明らかにあった。世界の共産主義運動の中で、左派に位置すると見られる日本共産党員の娘である私が、最右翼に位置すると思われているユーゴスラビア共産主義者同盟員の娘のヤ―スナと仲良くなることで、論争と人間関係は別なのだということを何としても自分と周囲に示したかった。

(p207)

というのを読んで、ティーンエイジャーがそれを思い至るまでの経緯というものを考え込んでしまった。
話変わって、いいなぁと思ったのがロシア人の際に対する考え方:

(亡命音楽家や舞踊家の談)「西側に来て一番辛かったこと、ああこれだけはロシアのほうが優れていると切実に思ったことがあるの。それはね、才能に対する考え方の違い。西側では才能は個人の持ち物なのよ、ロシアでは皆の宝なのに。だからこちらでは才能ある者を妬み引きずり下ろそうとする人が多すぎる。ロシアでは、才能がある者は、無条件に愛され、皆が支えてくれたのに」

(p193)

ロシアでは他人の才能を無私無欲に祝福し、喜ぶそうだ。なんだか怖い顔をしているイメージしかなかったロシア人に印象が変わりそうな一節だった。

米原万里 「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」 平成13年 角川書店

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