ウルフがかわいすぎ…:ミシェル・ペイヴァ― 「クロニクル千古の闇1 オオカミ族の少年」


酒井駒子さんの絵に魅かれてずっと読みたいと思っていた「オオカミ族の少年」。
なんとなく機会を逸していたけれどもついに読み終わった。

正直な感想としては、読んでいる最中はぐいぐい読めたけれども、そんな面白かった!!!というものじゃなかったな。
なんとなくあっさり終わってしまった感がある。

ファンタジーなのかと思ったが(そして訳者のあとがきから察するに、ファンタジーというくくりなんだろうけれども)、別世界で繰り広げられる物語、という訳ではなく、今から6000年前のフィンランドを舞台にした物語である。
言ってみれば「空色勾玉」のような態で、いわゆる歴史ファンタジーなんだろう。でも6000年前というところから分かる通り、狩猟民族の頃のお話なので、魔法の力というのも日常茶飯事と思うと、狩猟民族の生態を忠実に描いた歴史小説のような気がしてならない。そうなるとファンタジーっていう定義ってなんなんでしょうね…?

それはさておき。
主人公のトラクはオオカミ族の少年。しかし族の中で生活しておらず、父親と二人で生きている。
その平穏な生活は、一頭の巨大熊に襲われ、父親が殺されてしまって終焉を迎える。
死の間際の父親に、熊は悪霊に取り憑かれていることを知らされ、それを止める為に<天地万物の精霊の山>に行くことを誓わされた。

そうして一人ぼっちになったトラクは、同じく家族を洪水で流されたオオカミの子供と出会う。
トラクはある生い立ちの事情で、オオカミの言葉を理解し喋れるので、トラクとオオカミの子は一緒に旅をする。というのは、どうやらオオカミの子はその<天地万物の精霊の山>の場所を知っているようなのだ。

ところが、ある時鹿を殺した時に、ワタリガラス族の一族に捕まってしまう。
そしてトラクは予言に出てくる“聞く耳を持つ者”だと言われ、いけにえにされそうになるところを、なんとか逃げ出し、ワタリガラス族の女の子・レンと共に山に向かうのだった…

というような流れ。

一応、熊は倒すので話は完結するのだが、その他いろいろ謎は残されたままで、7巻までシリーズとなっているとのことだった。

ストーリーラインとしては目新しいものではなかったけれども、狩猟民族の生活が克明に描かれていて、それが面白かった。
自然との対峙の仕方や、狩るものと狩られるものの関係など、日本の農耕民族の考え方とは違うな、というのがよく分かった。特に自然に関しては、日本にだって自然に根付いた文化があるが、こちらの自然は非常に厳しいものですぐに自然が“怒る”。金田一春彦氏が、日本の自然は人間に優しく、それが西洋文化の“契約社会”とは異なった文化を形成させた、的なことを書かれていたのが思い出された。

その自然の描写でちょっといいな、と思ったのが、レンとはぐれてしまうシーンで、

「レン!レン!」
 氷河はその声をトラクのくちびるから引きはがし、深くなってきた闇のほうへと運び去っていった。

いかにも厳しい自然の容赦なさが描かれていると思った。


ミシェル・ペイヴァ― 「クロニクル千古の闇1 オオカミ族の少年」 2005年 評論社

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