古い家に住んでみたいが、虫の問題が有:梨木香歩「からくりからくさ」

今、私の中で旬な作家が梨木香歩です。なんか遅れてるけど。そんなことで次に読んだのが「からくりからくさ」。本屋でちょっと「りかさん」を立ち読みした後に、実はその前はこの「からくり からくさ」だ、ということに気づいたので、慌てて読んだわけです。

 時間軸的には「りかさん」の方が前のようです。「りかさん」は、りかさんが蓉子の手元にやってきた話に対して、「からくりからくさ」はそのりかさんをくれたおばあさんが亡くなったところから始まります。そのおばあさんが住んでいた家を、このままにしておくのはもっといない、ということで、蓉子の両親はそこを下宿宿にするのです。

 そんなわけで、大家の蓉子と、蓉子とLanguage Exchangeをしていたマーガレット、蓉子が外弟子として通っている染色工房に糸を買いに来る、美大生の二人、与希子と紀久と女の子四人で住む事になったのです。

 肝心のりかさんはというと、おばあさんの道行きに見届けるためにいなくて、空っぽな状態なわけです。それでも蓉子はりかさんとの生活をしているので、ある意味、りかさんを中心に四人の生活が始まるわけです。そして、お話自体もりかさん中心にまわっていくところもあります(りかさんの生い立ちを探るっていくことによって、与希子と紀久がつながっていたことが分かったり)。

 そんな中で、のんびりとまったりとした話になっていきそうなところを、雰囲気にしまりを出しているのは、マーガレットでしょう。マーガレットは外国人であるだけでなく、唯一、りかさんの存在が認められない人です。そんなマーガレットが、最後に子供を産む、というのがまた面白い。

 しかし何よりも面白い、というか印象的なのは、やはりクライマックスです。りかさんが燃えていく、というのがあれほど衝撃的で、それでいて悲劇的、というよりも燃え盛るりかさんが美しかったというのに納得を感じるのは、それまでの話の積み重ねが大きい気がします。一見、当たり前の事のようですが。でも、りかさんがそれまでは静かに黙していた、というのがミソなような気がします。静な美から動な美へ、みたいな。最後の場面は、芥川龍之介の“地獄変”を少し思い出しました。

 四人の中で、一番、その言葉が沁みたのは紀久でした。性格的には与希子の方が好きだったんですが、紀久の機織子を見る眼差しが好きでした。

 古今東西、機の織り手がほとんど女だというのには、それが適性であった以前に、女にはそういう営みが必要だったからなのではないでしょうか。誰にも言えない、口に出していったら、世界を破滅させてしまうような、マグマのような思いを、とんとんからり、となだめなだめ、静かな日常に紡いでいくような、そんな営みが。(p95)

 私はそこの土地で採れる作物のような、そこの土から湧いてきたような織物が好きなの。取り立てて、作り手が自分を主張することのない、その土地の紬ってくくられてしまう、でも、見る人が見れば、ああ、これはだれだれの作品、っていうようにわかってしまう、出そうとしなくても、どうしても出てしまう個性、みたいなのが好きなの。自分を、はなっから念頭にいれず、それでもどうしてもこぼれ落ちる、個性のようなものが、私には尊い (p143)

(からくりからくさ 梨木香歩 新潮文庫 平成14年)

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