またもや有栖川有栖作品。今回は火村さんシリーズから。「乱鴉(らんあ)の島」。面白くて一気に読みました。
タイトルから分かるように、これは孤島ものでした。
疲れているような火村さんを見て、下宿屋のおばあさんが勧めてくれたので、火村さんと有栖川は鳥島に行く事になるのです。ところが、手違いがあって、鳥島ではなくて烏島に行ってしまうことになるのです。その島には大物作家海老原の家があり、そこには人々が集まっていました。船が迎えに来てくれないため、火村さんと有栖川はそこに泊まらせてもらうことになるのですが、人々はなんとなく歓迎しない感じです。そこへ、今をときめく起業家、初芝がヘリコプターでやってきます。客の一人である医師の藤井さんを訪ねてきたのです。その藤井さんはというと、ひどい調子で追い返します。
そんなこんなで、殺人が起きるのです。今度は、電話線が切られているわ、船は二日後にしか来ない、ということで閉じ込められるわけです。
「女王国の城」に続き、何かを隠している人たちとともに、閉鎖された空間の中で起きる殺人、というシチュエーションでした。が、続いていようがこのシチュエーション、やっぱり面白い。多分、推理小説の醍醐味が凝縮されているシチュエーションなのかもしれません。
このシリーズの有栖川は、江神さんシリーズを書いている設定だったような気がするのですが、微妙に本当の有栖川氏に反映しているのかもしれません。子供達二人が、有栖川の名前を知っている、という設定で、その時に一冊だけ子供向けのを書いた、というくだりがありました。多分それは、「虹果て村の秘密」のことなのでしょう。
あと、あ~そうなんだ~と思ったところ。
手の込んだ本格ミステリの書き手は、必ずしも頭脳明晰ではない。というよりも、本格ミステリの創作と卓越した知性はほとんど関係ない。執筆の上でコモンセンス以外に必要なものは、このジャンルに関する基礎的な知識――その面白さの理解が大きな比重を占める――といくつかの技法の習得、そして無用なものに手間が注ぐという根気だ。…(中略)…
名探偵は、結末を知っている書き手から真相を耳打ちされているがゆえに、天才や賢者のポーズが取れるにすぎない。しかし、名探偵が偉大な頭脳を持っているかのような演出をされるものだから、なにやらその小説の作者もお利口そうだと勘違いする人もいるのだろう。(p226-227)
(乱鴉の島 有栖川有栖 新潮社 2006年)
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