百合はお見舞いに持っていってはいけない花:恩田陸「黄昏の百合の骨」

なんでこんなに恩田陸がつぼになったのかを考えつつ一筆。
多分、この人の書く“異常”がつきまとう闇みたいのがやけに魅力的なのでしょう。もちろん、そういうのがないさわやかな「ネバーランド」もすごく好きなのですが、恩田陸の魅力、といったら、どちらかというと「三月は深き紅の淵を」のような作品をとっさに思い浮かべてしまいます。私は。

そんなこんなで恩田陸、「黄昏の百合の骨」を読みました。
これは「麦の海に沈む果実」の続編になっています。

この中では理瀬はあの学院ではなくて、イギリスに留学していることになっています。そこから一時帰国し、祖母の家に住むところから始まります。

祖母は突然事故で亡くなり(家の中で)、その祖母の家には、祖父の連れ子の梨南子と梨耶子が住んでいました。彼女達は夫が亡くなったり、別居したりでこの言えに戻ってきていたのでした。

ちなみに「麦の海~」で出てくる、理瀬の実家というのはここだったのでしょう。

その祖母の家は白百合荘と呼ばれ、近所の人々には忌み嫌われていました。しかも、その祖母の死も謎めいていて、本当にあれは事故死だったのか・・・?というわけです。

その上、梨南子も梨耶子も得体の知れない人物たち。

今回の理瀬の仲間(?)たちは、隣に住む、理瀬と同い年の朋子。その弟の信二と幼馴染の雅雪。雅雪の親友で、朋子に惚れている田丸。それから、理瀬の従兄弟の(「麦の海~」に名前だけ出てきた。兄妹のように一緒に育てられた)稔と亘。

今回の大きな謎は、この家は一体なんぞや?というもの。この家の周りで動物たちは死ぬわ、祖母も死ぬは、田丸くんは消えるは、しかも何かをつかんだらしい梨耶子も死んでしまう。

ネタをばらすと…

この家はどうやら軍に使われていたらしい。二階の部屋全ては盗聴できるようになっていて、どうやら娼館として使われていたのではないか。しかも、地下には死体を処理する(文字通りあとかたもなくす)部屋もあった。というものでした。

もちろん、それだけがメインなのではなく、どんでん返しがいくつもしかけられているのでした。

とにかく登場人物で異様な人の率がとても高い。主人公の理瀬もいわゆる真っ当な子ではないし、稔もそう。梨南子も最初から奇妙だし、「光」の世界を歩んでいる、という設定の亘も、従兄弟の理瀬が好きだったりする。

私にとって何気に一番怖かったのは、朋子でした。しょっちゅう、その幼馴染の雅雪によって指摘されているけれども、可愛い子の面の裏側の様は、本当に不気味。しかも最後には狂気じみた場面もあり、ふと、恩田陸は、こういう一般的に理想的な女の子、というものに容赦ないなあ、と思いました。

一番最初の話に戻るけれども、恩田陸の魅力は、彼女の描く歪みが魅力的なんだ、ということで抜粋;

 しかし、今ではぼんやり分かる。悪は全ての源なのだ―善など、しょせん悪の上澄みの一部に過ぎない。悪を引き立てる、ハンカチの縁の刺繍でしかないのだ。でなければ、善がいつもあんなに弱く、嘘くさく、脆く儚いことの説明がつかない。
 つまり、この世の全ては悪の巨大な褥から生まれたのだ。そして、悪の褥は常に新しい血を必要としており、その血を生まれながらに持った者がいつの世も必ず存在する。悪の存続は人間にとっての必然であり、自然の理として強く運命づけられているのだ。

p152

あともう一文。非常にはっとさせられた表現で、梨耶子が死んだ場面;

存在の重さよりも、不在の重さの方が日毎にずしりとこたえてくるものなのだ。

p200

(恩田陸 「黄昏の百合の骨」 講談社 2004年)

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