結局主人公は何で生計をたてているのだろう・・・:大西巨人「深淵 上」

確か、三浦しをんさんのエッセイに紹介されていた本だったので、何の疑問も抱かずに借りてきた「深淵」by大西巨人。確か確か、エッセイの中では絶賛だったはず。
なのに・・・

なんじゃこりゃあああ!!!!
というほどのつまらなささでした。多分、本自体がつまらない、というわけではなくて、まるっきり私に合わない本だった気がします。

話はなかなか興味深いもので、主人公の麻田布満は、所要で北陸へでかけます。しかしそこの海で泳いで、次に気付いてみたら十数年後に、北海道の病院にいたのでした。タイムスリップというファンタジーではなくて、記憶喪失だったわけです。

東京に戻って、知人や家族に会うと、その空白期間は(当たり前のことながら)麻田は失踪したことになっていました。そしてその間に、妻との間に娘ができていたのです。

それと同時に、自分の友達が冤罪で柵の向こうにいることも知ります。共通の友達が、その人の再審を求める有志の会に入っていることも知ります(ちなみに、彼が投獄されている経緯などは、その共通の友達から知らされます)。

それに対して、麻田は決定的な証拠を見つけ出す事ができ、その友達ははれて再審無罪判決を言い渡されることになったのでした。

話の内容だけ見れば、そんなつまらなくなさそうですが、なにがあれって文体が非常に独特なのです。多分、これが好きな人は、その文体が好きなのでしょう。例えば冒頭;

 麻田布満という二十八歳の青年が、首都圏・埼玉県与野市〔現在のさいたま市〕の彼の住所から失踪した。それは、一九八五年〔昭和六十年〕七月二十日土曜のことである。もっとも、麻田の肉親、友人、会社同僚などが事態を失踪ないし行くえ不明ないし「蒸発」として充分本気で考慮・心配し始めたのは、七月末~八月初旬ごろ以降のことであって、最初から麻田の身の上を真剣に案じ事柄を重大に考えていたのは、――布満の両親を始め彼の知り合いたちが冷淡非常であったというような意味では毛頭なく、――布満の結婚三年目の妻琴絵だけであったかもしれない。

p10

とにかく説明的で、このままずっとこの調子で続くのです。なので、感情移入はもちろんできません。

その上、話の流れが異様に分かりにくく、話があちこちに飛ぶのです。登場人物をよりよく知らせるためか、彼の思想論を書き綴ってみたり、事件をより深く理解させるためか、他の事象の概論やらを書いてみたり……。とにかくつかみにくい。そして、万事が説明的な文章で淡々と進む。
というわけで、報告書とか論文を延々と読んでいるような感じです。

自分に合わない本だとひしひしと感じているけれども、上を読んでしまったので、気合入れて下を読まなくては。

(大西巨人 「深淵 上」 光文社 2004年)

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