24時間も歩き通しだったら足の皮めくれそう:恩田陸「夜のピクニック」

あんまり本を読まない人でも知っているくらいなので、相当面白いのだろうなと思っていたけれど、本当に面白かった「夜のピクニック」by恩田陸。
恩田陸マジック炸裂でした。

彼女は実にいろんな分野の本を書いていますが、これはまあ“青春もの”ですかね。「ネバーランド」ちっくですね。

恩田陸作品って、筋がものすっごくややこしいのと、ものすごくシンプルなものに分かれる気がします。これは明らかに後者で、読後に改めて筋を考えても、そんな劇的な流れでもなんでもなく、結構簡単。

あまりにシンプルで途中で話の結末がなんとなく見えてしまうくらいですが、それでも止まらずに読めるし、何よりも「面白い!」とわくわくしながら読めるのがすごいです。

たぶんそれは、設定がすごく面白いのと(今回の場合だと修学旅行のかわりに24時間歩き通しの行事とか)、細かなエピソードがきらきらしているからだと思います。

あらすじはというと、修学旅行の代わりに24時間歩き通しの行事が毎年ある高校が舞台(だから正確には、夜中“のみ”のピクニックではないのですな)。

話の中心にいるのは、西脇融と甲田貴子。視線がこの二人にかわるがわるなりながら話が進みます。(以下ネタバレ)

結論から言うと、この二人は異母兄弟で貴子の方が私生児。二人が初めて会ったのは、二人の父親の葬式のことでした。父親の顔を全く知らない貴子は、逆に兄弟に会うのを少し楽しみに行ったのに対して、融は憎悪を貴子に抱きます。そして不幸なことに高3の時には二人は同じクラスになってしまうのです。

そんなわけで、貴子は一方的に融から嫌われているのですが、この行事中にある賭けをします。それが、もし融に話しかけて会話が成立したら家に呼ぶ、というものでした。

そんな貴子の周りでも、友達がいろいろと動いてくれていて・・・という感じで、結果的にはハッピーエンドとなりました。

とまあ、あらすじは少々単純なところもありますが、やはり細かい所がよかったので、その欠片を;

 当たり前のことなのだが、道はどこまでも続いていて、いつも切れ目なくどこかの場所に出る。地図には空白も終わりもあるけれど、現実の世界はどれも隙間なく繋がっている。その当たり前のことを、毎年この歩行祭を経験する度に実感する。物心ついた時から、いつも簡略化された地図や路面図やロードマップでしか世界を把握していないので、こんなふうに、どこも手を抜かずに世界が存在しているということの方が不思議に思えるのだ。
 その一方で、世界は連続しているようで連続していないのではないかという感じもする。一枚の大きな地図ではなく、沢山の地図がちょっとずつあちこちで重なり合って貼り合わされている、というのが、融が歩いていて感じるこの世界だ。だから、ところどころで「つなぎ目がぎくしゃく」していると感じる場所があるし、「薄い」と感じる場所と、「濃い、重要な」感じのする場所があることに気付く。

これ以外にも、特別に指摘するところでない、本当にちょっとした部分の表現とかに「やっぱり恩田陸っていい!」と感じいってしまいました。

恩田陸ってすごい

(恩田陸 「夜のピクニック」 2004年 新潮社)

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