シャーロック・ホームズ読み始めて初めて大人用の本。
「シャーロック・ホームズの冒険」は短編集なので、前の2冊であったような冒険譚はない。
あそこの部分が割と好きだった私としては残念な気持ちもあるけれども、なければないでホームズの論理的な推理が印象的になるのでそれは十分面白かった。
シャーロック・ホームズ、本当に鼻持ちならない人だけど、筋道たてた話は本当に面白い。
まぁよく考えるとこじつけ…となるかもしれないけれども、読んでいる最中では“ほぉ~”となる。
そしてワトスンもしきりに言っているが、ホームズがズバッと当てるときには“なんで分かるの!?”となるが、実際に論理立てて説明されると取るに足らなく感じる。
手品で“うおぉ~”となるけれども、タネを明かされると“あ、なるほどね”となるのと同じ感覚で、ホームズが「だから種明かししたくないんだよね」というようなことを言ってはいるけれど、そこが読者としては面白い。
推理小説って結局種明かしのところが一番面白いんだと思うけれど、私が今まで好んで読んできた本は、この“タネ”となるところがなかなか凝っている。だからタネに対して“うおぉ~”となってきた。
でもホームズの場合は、タネの部分は割と大したことない。その小さな“大したことないこと”の積み重ねで“うおぉ~”に繋がるという、なんか逆をいく感じで新鮮な気がする。
さて収録されている作品は以下の通り(ネタバレあり);
「ボヘミア王のスキャンダル」
これはホームズがちょっとしてやられる話。
ボヘミア国王自らの依頼で、王は近々結婚することになったのだが、その際に過去の清算をしたいところ。皇太子だったころに熱をあげたアイリーン・アドラーとの写真を、アイリーンから取り上げて欲しいというのだ。
ホームズが調査をすると、なんと成り行きでホームズはアイリーンの結婚の立会人になってしまう!
一芝居を打って写真のありかを知ったホームズは、王と一緒にアイリーン宅へやってくる。
ところがホームズの芝居に気付いたアイリーンは、一足先に逃げてしまっていたのだった。
「赤毛連盟」
これは大変よく覚えていた話なので、そんなに記述する必要がないだろう。
見事な赤毛の質屋の旦那。赤毛連盟からただ百科事典を書き写す、というだけの仕事をもらう。
それは銀行泥棒に繋がる陰謀だった、という話。
「花婿の正体」
若い娘さんが依頼主。
なんでも亡き父が多大な遺産を彼女に残したという。そして彼女の母親は自分より若い男と再婚して、今は三人で暮らしている。
その父親が留守中にパーティーである男と出会い、二人は恋に落ちる。結婚まで進んだのだが、結婚式の当日、つい先ほどまでいた花婿が、馬車から忽然と姿を消してしまったのだった。
真相はというと、その娘が他家へ結婚してしまうと財産がすべてなくなってしまうという懸念した、義理の父親が仕組んだことだった。なんと娘が出会った人こそが義理の父親の変装で、娘に貞操を誓わせ、一生家に縛り付けて置く作戦だったのだ。なんてひどい!
「ボスコム谷の惨劇」
オーストラリアから帰ってきたマッカーシーとターナー。
オーストラリアで知り合いだったという二人は、金持ちであるマッカーシーが昔のよしみでターナーにただ同然で土地を貸している。
マッカーシーには娘が、ターナーには息子がいた。
ターナーは自分の息子にマッカーシーの娘を結婚させたがっているのだが、それでしばしば息子と口論になっていた。
息子が久しぶりに家に帰って、森の中で父親とばったり出会った時も同じく口論を行っていた。
息子が踵を返した直後に父親の悲鳴。かけつけると父親は何者かに殺された後だった。
真相はというと、マッカーシーは実はオーストラリアにいる間、強盗を働いていた。
その時に情けをかけて殺さなかった人の中にターナーがいた。
一財産儲けてイギリスに帰り、足を洗って生活しようとしているところで、ターナーに会ってしまい、ターナーはそれをネタにゆすりをかける。その挙句、結婚までさせようと知ったマッカーシーは我慢できず殺してしまったという話。
「五つのオレンジの種」
アメリカ帰りの依頼人の伯父。ある時、5つのオレンジの種が入った手紙を受け取り、大変うろたえる。手紙の差出人はK.K.K.。伯父は死んでしまう。自殺と判定されるが。
その後、伯父の後をついだ依頼人の父親は、またもや五つのオレンジの種が入った手紙を受け取り、その後事故死してしまう。
今度は自分の番だと怯える依頼人。
結局ホームズは犯人を突き止めたものの、依頼人は死んでしまう。
K.K.K.ってこの時からいたのね、とびっくりした。
「唇のねじれた男」
ワトスンが、知り合いを阿片窟から連れ戻すために、ロンドンのある阿片窟を訪ねると、そこでホームズにばったり出会う。
ついに阿片に手を出した!?と驚いたが、そうではなく事件の調査中という。
ある田舎街に大変お金持ちの若い男がやってきた。そこで女性と知り合い結婚したのだが、一定の期間でロンドンへ出掛ける。
ある時、夫人もロンドンに出掛けると、阿片窟の二階に夫がいるのを見つける。大変驚いた顔をしてぱっと姿を消してしまったので、何か事件に巻き込まれているのでは!?と驚いた夫人が駆け付けたのに、そこには唇のまがった乞食がいるのみ。
どう考えても逃げ道がないはずなのに忽然と姿を消してしまったのだった。
真相は、その乞食こそが夫だった。
演劇の心得があるその夫は、乞食になることによって莫大な財産を得ていたのだった。
でもそれを夫人に知られたくなくて、そんなこんな事件になってしまという。
「青いガーネット」
守衛のピータースンがクリスマス前に帽子とがちょうを、ひょんなことから手に入れる。
持ち主が分からないのでホームズに調査を頼んできたのだが、とりあえずホームズはがちょうの方はピータースンが食べることを勧める。
そこへワトスンがやってくるわけだが(ワトスンは結婚して、もうベーカー街に住んでない)、そんな折にピータースンが慌ててやってくる。なんでもがちょうの胃に青いガーネットが入っていたというのだ!
どうやらそれはしばらく前に、伯爵夫人が泊まっていたホテルの一室から盗まれた物のようなのだ。
がちょうの元持ち主の捜査から始まり、がちょうの出所まで捜査を進める。
「まだらのひも」
有名すぎる話でひもが蛇だった、というのはめちゃくちゃ覚えていたけれども、発端は覚えていなかった。
「花婿の正体」と似たような動機だが、義理の父親は元は由緒正しいお家柄。ただ先代が放蕩の限りを尽くしたのでお金はない。
一方依頼人の母親は未亡人でお金持ち。その義理の父親と結婚したのはいいとしても、二人の娘を残して死んでしまう。そして遺産はもちろん娘たちへ。
まずは依頼人の双子の姉が突然死してしまう。
そして家の改装をしなくてはいけないということで、姉が生前使っていた部屋に引っ越したのだが、姉が死ぬ前に言っていた笛のような音が聞こえてきて、怖くてどうしたらいいのか…というのがホームズへ依頼する発端となったのだった。
「技師の親指」
ワトスンの元へやってきた患者は技師だったのだが、親指がすっぱり切れてしまった。
話を聞くと、大変奇妙なことに巻き込まれているようだったので、ホームズに依頼する。
なんでも非常においしい話があってそこに向ったのだが、そこにいた女性には逃げろと言われるし、挙句の果てに殺されそうになる。
ホームズは贋金作りの現場だということを推理し乗り込むが、もぬけの殻だった。
最後に技師が親指もなくなっちゃうし、報酬もないし散々な目にあった!と嘆くのに対してホームズがかける言葉がなかなか印象的;
「経験があるじゃないですか」ホームズは笑いながらいった。「すぐに金には結びつかなくても、経験は価値あるものです。あなたはこれから一生、今回の経験を話すだけで、面白い話し相手だという評判を得ることができますよ」(p331)
ホームズが人を慰めるなんて結構驚きな上に、すごいポジティブな言葉で感心したけれども(上から目線)、技師が親指なくしたら“面白い話相手だという評判”を得るったってあんま慰めにならないような気が…
「独身の貴族」
イギリスの貴族が、資産家の娘であるアメリカ人と結婚した。
ところが結婚式が終わってから忽然と娘の姿が消えてしまったのだった。
真相はというと、死んだと思っていた恋人が生きて結婚式に参列していたのに気付いた花嫁は、その後駆落ちをした、ということだった。
「エメラルドの宝冠」
担保として、さる貴族から預かることになったエメラルドの宝冠。銀行の社長は失くしたら大変と、始終自分の傍から離れさせないようにする。
そんなわけで家に持って帰ったのだが、そこにはどら息子と、心優しい姪が住んでいた。その二人に宝冠の話をしてしまったのが運のつき。
夜に人の気配がして見ると、宝冠を持っている息子を見つける。そしてなんと宝冠にエメラルドがない。
すぐさま息子を警察に引き渡すが、もちろん息子はやっていないわけだ。
ホームズの推理により、実は姪が、息子の悪い友達に唆されて、その友達にどっぷり恋してしまってるものだから盗んだということが判明する。
「ぶな屋敷」
ある女性が、オファーを受けている家庭教師の職を受けるべきか相談にくる。
なんでも奇妙な雇い主だというのだ。服も決められていれば髪型まで決まっているのだ。
とりあえずその職を受け、何か問題があれば電報を寄こすようにホームズは言う。
果たして電報が送られてきたのでホームズとワトスンは出掛ける。
最初は優しいと思っていた主人も、恐ろしい本性が見えだしてきて怖くなっていたという。しかも入ってはいけない場所が屋敷にあってますます怪しい様相。
真相はというと、実はその入ってはいけない場所に、主人の娘が幽閉されていたのだ。
その娘というのはある人の遺言により莫大な遺産を受け継いでいる。
おとなしい娘だったので主人は安心していたのだが、ある男性と知り合って親密になるのを見て、結婚して家を出て行ってしまう危機を感じる。
父親が激しく責め立てたものだから娘は脳炎を患ってしまう。
娘の恋人に諦めさせるために、娘と背恰好の似ている女性を家庭教師に雇ったと言う訳だった。
3作ほど娘に遺産があって…という話が出てきたが、それほど一般的だったのだろうか…?この時代。
ちょっと「またこのパターン…」という感じがあったが、ぐいぐい引き込まれるくらい面白かったのは事実。
コナン・ドイル 「シャーロック・ホームズの冒険」 石田文子・訳 平成22年 角川書店
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