ひとみさん達は、ぽいぽいと正太郎やサスケに甘いものあげてるけどいいの?:柴田よしき「猫探偵・正太郎の冒険I 猫は密室でジャンプする」

軽いものが読みたくて借りた柴田よしきの正太郎シリーズ。
前2作とは変わり短編集だった。
それもあって寝る前に読むのにぴったりだったが、なかなかしっかりした推理小説も入ってた。タイトル通り密室物もあったし。

猫が探偵といったら、言わずと知れた三毛猫ホームズがいるけれども、こちらは猫目線のせいか親近感もわくし、“暇だから人間が起す変な事件を解いたろか”的なのがなかなか面白い。
以下収録作品(ネタバレあり);


「愛するSへの鎮魂歌」

しょっぱなから珍しく、正太郎目線じゃないお話。
一人称で続くのだが、どうやら正太郎の飼い主・桜川ひとみに並ならぬ愛情を抱いているのが段々分かる。
なんでもひとみが書いた“愛するSへの鎮魂歌”という作品を読み、自分のイニシャルがSだからって自分へのメッセージかと勘違いし、ファンレターを書くところから始まって、編集者のバッグを盗んで住所まで見つけてしまう、いわゆるストーカーとなる。

ひとみのマンションを特定した時に、たまたまひとみが住人に怒られているのを見て、エスカレートした主人公はその人を殺す。
挙句の果てにはひとみの隣に引っ越すのだが、いざひとみの部屋に入ろうとしたところで…正太郎に出会う。
猫嫌いの主人公はなんとか正太郎を排除しようとするのだろうが、結局自分がベランダから落ちて死んでしまう。

もちろん、ひとみが書いた小説で“S”が出てくるなんてところで読者はすぐ分かるだろうが、“S”は正太郎のこと。
ちなみに隣の男が死んだということで、警察がやってくるのだが、その時に警察が好きなんです!という小説に挙がってたのが「七回死んだ男」
確かに大変面白かったよな!と思いつつ、なんで出てきたんだろう?とちょっと不思議だった。作者とお友達?

「正太郎とグルメな午後の事件」

ひとみの元へ浅間寺竜之介と共に、京都のB級グルメを食べ歩くという話が入ってくる。
行くまでは高級料理の食べ放題と勘違いしたひとみは、正太郎をひっ連れて行く。
竜之介は正太郎の元飼い主で、竜之介の飼い犬のサスケとも仲がいい。

というか“俺はさっとバスケットから飛び出して、むくむくのサスケの腹部あたりに潜り込んだ。(p47)”なんて、正太郎かわいい…

それはさておき、さすがの甘い物好きなひとみでもあっぷあっぷしながら京都を歩いていると、同じ車が付いてくることに気付く。
というか最初にその車に気付いたのが正太郎とサスケなのだが、というのは車にはポメラニアンが乗っていて、ずっとキャンキャン騒いでいたからだ。

真相はというと、東京から来た編集者がお土産に持ってきた物というのが、新幹線の中で隣の人とすり替わってしまっていて、その中には麻薬が入っていたというわけだった。
そんなわけで、ポメラニアンが乗ってる車を盗んで犯人は付け回していた、というわけだ。

「光る爪」

これまた正太郎目線じゃない話。何気にひとみさん活躍。

一人称の主人公は夫がマレーシアに赴任している中、妻ある男と不倫の関係でいる。
その妻には猫がいて、ある時その猫にマニキュアが塗ってあることに気付く。その猫のマニキュアを取った次の日に、不倫相手の妻が殺されていることを知る。

ひとみが取材という名目がやってくるのだが、そこでひとみらしかぬ(といったら失礼!)鮮やかな推理を披露する。
妻を殺した容疑者というのは二人。旦那と元の旦那。
妻の隣には、マニキュアが塗ってあった猫の爪が1枚。でも他の爪には塗っていない。

なんでも猫にはスタッキングという習性があって、新しい爪が出てくると古い爪をひっぱってはがすそうだ。
どうやらその1枚をとってから外に出て、主人公に他の爪のマニキュアを取られたようなのだ。
そこから妻の死亡推定時間を狭く定めて、その結果旦那は容疑者から外れる。

そんな話をしていると天井から水がしたたるのをひとみが見つける。
なんと主人公の旦那はマレーシアに赴任しているかと思いきや、主人公が殺していて凍らせていたというオチ。

「正太郎と花柄死紋の冒険」

突然早起きをさせられて散歩に引き出された正太郎。もちろんひとみによって。
その時に猫の死体に出くわす。その周りに花びらのような跡。猫は殺されたんだ、そしてこれはダイイングメッセージだと主張するひとみ。

暇と、猫が殺されたということで、正太郎も独自の捜査を始める。
結果、そこには誘拐も絡んでいた。別れた男にしつこくされた女性が、目の前でその男が見せしめのように猫を殺すのを見て恐怖に震える。
その時にとっさに犯人の名前・梅木を連想する梅の花を地面に書き、自分のカードも落としたのだった。
正太郎がカードを見つけたのもあって(カラスが持っていってた)、無事に彼女は保護される。

「ジングルベル」

これまた正太郎目線じゃないお話。

クリスマスを一人で過ごすことに以上に怯える女性の話。
毎年クリスマスを一人で過ごすことがないように、その時期を狙って男を探しているが、歳を重ねるにつれてそれが難しくなった。
そんな時に出会い系サイトで見つけた男といい感じになり、しかも結婚まで視野に入れられるようないい人と巡り合った。
ある日デートをしている際に、ホームセンターで猫の砥ぎ砂が男にかかってしまう。
そこを出たところで突然猫(正太郎)に襲われる男。正太郎は男が持っていた手帳を持っていってしまう。
主人公はやっと正太郎に追いついて手帳を奪い返すのだが、その中にはびっしりと女性の名前と住所録が…
その時猫の声がする、「結婚詐欺だよ」と。お金を渡す前に分かって不幸中の幸いだったじゃないか、と。
なんで正太郎がそんな人間の通俗的なことを知っているのか…なんて。

「正太郎と田舎の事件」

密室殺人事件を書かなくてはいけなくなったひとみは、浅間寺竜之介に誘われて、密室殺人事件の名手の実家に呼ばれる。

実家に蔵があって、その土地の歴史的な観点からいったら大事なものがあったので、父親が死んでからはその蔵を郷土史の博物館として公開していた。
そこの家はちょっと複雑で、まず推理小説家の兄と妹がいる。それから従兄弟の双子の姉妹が、双子の両親が亡くなったこともあって引き取られていた。
今は二人は大きくなって、妹の方は一度結婚したものの出戻っている。

双子の姉がなかなか帰ってこないな~ということで探していると、なんと蔵である博物館で変死体となって見つかった。
蔵にはセキュリティセンサーが入っていて、ひとみと推理小説家が鍵を閉めた。そして死亡推定時刻には皆にれっきとしたアリバイがある。毎日見ているテレビを見ていたのだった。

今回活躍するのは浅間寺のおやじさん。
テレビを使った時間トリックを暴きだし、小説家の兄と妹による犯行と特定する。
どうやら、殺された従兄弟は引き取られてから、兄弟の父親の愛人をしていたようだ。その父親が亡くなってからその二人に、遺産が全部自分のところへ来るように強要したのが、殺人への引き金となったようだった。

柴田よしき 「猫探偵・正太郎の冒険I 猫は密室でジャンプする」 2001年 光文社

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