「最後の事件」が入っている本書。これで気持ち的にシリーズの半分来た感じだろうか。
正直、この本はそこまで好きな話がなかったので残念だった。特にキモである「最後の事件」は期待しすぎたせいか、ちょっとがっかりした。
(下)となっているくらいなので、これも短編(ネタバレあり);
「まがった男」
大変仲のいい大佐夫婦。ところがある晩、機嫌が悪げに帰ってきた夫人が、夫と激しく言い争いをしていたのをメイドが聞く。突然と男の叫び声と女の悲鳴が聞こえたので、その部屋に入ろうとしたのに扉が開かず。玄関から回って窓から入ると、夫は死んでいて妻は気を失っていた、という事件。
その日の午後、夫人と出掛けていた女性を突き止めたホームズが話を聞くと、どうやらその日、背中がひどくまがった男と出会い、夫人が親しげに話していたというのだ。
ホームズの捜査により、その男は大佐の元同僚。夫人はそちらと結婚したかったのだが、夫人と結婚したかった大佐はその男を陥れ、彼は死んだと言って夫人と結婚したのだった。
男は復讐に行くつもりではなかったが、故国が恋しくて帰ってくる。真相を知った夫人が夫をなじっている時に、男が窓からのぞき込み、その時に驚愕した大佐はそのまま死んでしまった、というのが真相。
「入院患者」
あなたに投資したいと言われた医者。その投資金で開業医になり、投資家はそこに入院することになる。
何年かたち、なんとも奇妙な患者がやってくる。歳とった父親と青年の組み合わせ。
この二人組が二回程訪問した後、投資家は首を吊って死んでしまう。
もちろんこれは自殺ではなく、どうやら三人の人間が関わっているようだ。真相はというと、この投資家と二人組とあと三人人は銀行強盗を働いていた。
投資家は仲間を裏切り、二人は縛り首、残りの三人は15年の刑に服すことになる。
そして刑が早く終わった三人は、まず二人で様子を見にいったが不在。ついに三人で殺しにいくことに至ったのだった。
「ギリシャ語通訳」
ホームズのお兄さんの初登場エピソード。
お兄さんの方がホームズよりずっと賢いそうだが行動力がまったくない。そんな彼に会いに行ったら、彼の元へ来た謎が提示される。
依頼主はギリシャ語の通訳者。
突然、拉致に近い形で通訳の仕事を言いつかる。怪我をしてやせ衰えた男の通訳をすることになるのだが、依頼者が質問を通訳し、その男が石板に答えを書くという不思議な問答が始まる。
依頼者の気転で、彼は初めてイギリスに来て痛めつけられているということを知る。
誰かに言ったら殺す、と言われるが、ホームズ達の勧めで新聞に広告を出す。
またもや同じ連中に拉致された通訳者をホームズ達が追うと、殺されそうになっている通訳者と、既に死んでしまったギリシャ人がいた。
真相はというと、ギリシャの金持ちの娘がイギリスに来た際に悪党と知り合い、かけおちすることになった。心配になった兄はまんまと捕まってしまったのだ。
結局ホームズは悪党や妹を捕まえられずに終わってしまう。
「海軍条約」
ワトスンの級友が持ってきた謎。
彼は外交官で名士の叔父がいることもあって、どんどん出世していく。
その叔父からの依頼で、機密の文書のコピーを取るように頼まれる。
ところが、彼がちょっと目を離したすきにその原本が盗まれてしまうのだ。
犯人は許嫁のお兄さんだったのだが、その原本の返し方がホームズにしてはドラマチックで良かった。
朝食に呼ぶのだが、そのお皿のふたを開けるとジャジャーン!とばかりにあるのだ。
「最後の事件」
問題のエピソード。
死の危険が迫っていると突然ワトスンの元へ現れたホームズ。
モリアーティという悪の根源を一網打尽にやっつける手はずを整えたのだが、その本人に命を狙われているのだ。
ワトスンとヨーロッパへ逃避行をするのだが、最終地点のライヘンバッハの滝へ着く。
するとイギリス人の急患者が出てきたので、助けてほしいという要請を受けたワトスンはホテルに戻る。
しかしホテルにはそんな患者がおらず、はっとしたワトスンが滝へ戻ると、ホームズの手紙が残っているばかり。
モリアーティはホームズに追いつき、二人は滝へと落ちてしまったようだった…というところで終わる。
現代で、もっとも危険な犯罪者と、もっともすぐれた法の守護者は、こうして、うずまきあわだつ、おそろしい滝つぼの底ふかく、永遠にによこたわることになったのだ。(p249)
そう言われると劇的な感じだけれども、なんだかなぁーという感じ。
モリアーティ教授がどんだけ賢いやつかそんなに分からないし、なんかその出方唐突すぎて、ホームズの死が非常にあっけなく感じる。
せめてホームズがモリアーティにかけた罠が出てきているのだったらいいのだが…
これだったら発表された当時、ものすごいコナン=ドイルに批判が来ても分かるわという感じ。
これで終わったら納得いかない!
コナン=ドイル 「シャーロック=ホームズの思い出(下)」 大村美根子/沢田洋太郎/中尾明・訳 1983年 偕成社
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