表紙絵が好き:三津田信三「厭魅の如き憑くもの」

ずっと気になっていたシリーズだけれども一巻である「厭魅の如き憑くもの」がずっと借りられていて、やっとこさ手に入れた一冊。

時代は戦後直後っぽく、儀式やら家やら血統やら面白い要素満載だった。
あらすじだけ見ると横溝正史を彷彿するかな?と思っていたが、なぜかTRICKを想像してしまった…
不思議な雰囲気な山奥の村というのがそうさせたのか…
ホラー要素をふんだんに含めた推理小説なので、そこそこ怖い。

神隠しなどの、その村で起こった不思議なことについて、一応からくりを提示(登場人物が推理)してくれるけれども、一部を除いて、例えば“そうやって姿を消えたってのは分かるけど、結局その後はどうなったっていうの?”というのがあって、私はなんとなくしっくり来なかった。無理にホラーの部分はホラーを残して欲しかった。

あと登場人物が割とややこしくて、二つの家が舞台になっているのだが、その二つの家にも分家があり…とその相関関係を把握するのが難しかった。
借りた本には、登場人物の相関図のページに付箋がついてて、その気持ちがよく分かった…。
そもそも谺呀治家と神櫛家と御大層な名前からして馴染みにくい上に、その二つの家の歴史まで登場して勘弁してくれ~ってな感じだった。

つまりは割と本腰を入れて読まなくては、きちんと理解し、楽しんで読める本ではなかった。


この二つの家のうち、谺呀治家というのは、もともとは隣の村・爬跛村にあった家系で、その分家が神櫛村にやってきた時には、蛇憑きの家と言われるようになる。
その後は、蛇憑きと同時に巫女の家系として、代々神櫛村に位置するようになる。

一方神櫛家というのは、その名の通り古くからある由緒ある家柄。
谺呀治家が来てから勢力をそちらに奪われ、従って仲が悪い。
谺呀治家筋のことを黒、神櫛家筋のことを白と呼んで村は二つに分かれている。

さて、この村には案山子様という信仰があり、村のあちこちに案山子が立っている。
この案山子、神であることもあれば、厭魅(まじもの)と呼ばれる悪霊的なものである場合がある。
二つは違うものだが同じ格好をしているので区別がつかない。

本書の探偵役は怪奇幻想作家の刀城言耶。
蛇憑きなどなどの調査をしに神櫛村へやってくる。
ただでさえ登場人物がややこしい本書、まとめるのが非常に面倒くさいのだが、ざっとまとめると(ネタバレあり)。


この白の家・黒の家とに分かれていることに不満を抱いているのが谺呀治家にいた。
村の因習を苦々しく思っている神櫛家の漣三郎と、憑座の紗霧を結婚させようと画策していたのだが、そのメンバーが次々殺されていく。
しかもその死体は案山子様の恰好をさせられ、口の中には櫛だの竹だのが突き刺さっているという。

犯人はというと、このカカシ様だったというオチ。
ていうのは、紗霧には双子の姉がいた。が、巫女筋に伝わる儀式を経た時、姉は亡くなり紗霧は足を悪くする。

姉はカカシ様になったのだ!ということになったが、実際には蘇生し、祖母である巫女は村の子を神隠しのようにかどわかし身代わりにして、姉はずっとカカシ様としてひっそり暮らしていたというわけだった。

本書の構成は、壱、弐…という文章の後に、紗霧の日記、取材ノート(刀城の目線)、漣三郎の記述録と続く様に構成されている。

この壱、弐…という文章が、第三者の目線・神の目線のように書かれているのかと思ったら、実はこれこそが紗霧の姉小霧目線のお話だったというわけだ。

まあこのからくりは面白いと思ったし、刀城言耶が最後に言及するその文章の見方というのも納得できる。

ただ、この犯人当てのシーンでは、何度も容疑者がころころ変わって、try and errorっぽいのが腑に落ちなかった。
やっぱり推理小説からには、ばーんとどーんといってほしい。

とりあえずシリーズを読み進めていこうと思う。


三津田信三 「厭魅の如き憑くもの」2006年 原書房

コメント

タイトルとURLをコピーしました