本のもこもこした感触がちょっと気持ち悪い:舞城王太郎「熊の場所」

久しぶりの舞城王太郎。

いや~面白かった!
短編だったので苦手かと思いきや、全然そんなことがなかった。
むしろいつも話が濃いので(なんとなく)、短編集の方がすんなり読めた気がしないでもない。
一気に読み切ってしまった。

収録作品は;

「熊の場所」

小学校5年生の時に、クラスメートのまー君のランドセルを蹴ってしまった時、中から猫の尻尾に間違いないものが出てくる。それにびっくりすると、まー君に「殺すぞ」と脅されてびびる主人公。

でも、父親の体験談を思い出す。
というのは、父親がユタの原生林を歩いている時に熊に出会う。
命からがら逃げれたのだが(同行人を熊が襲っている隙に)、ここで逃げてしまったら一生森が怖くなる!と思った父親は、元の場所に戻って熊をやっつける。

「恐怖を消し去るには、その源の場所に、すぐ戻らねばならない」(p26)という教訓を従おうと、まー君に接近する主人公。
まー君が猫の尻尾を隠している缶まで見つけ、尻尾の数を数えたりなんかしている。
ある時、まー君の家に泊まっていると(何度か泊まる仲になった)、どうやらまー君が自分を殺したいと思っているらしい、と気付く。それにわくわくする主人公。

そうこうしている内に、子供が一人いなくなって、それがまー君が殺したのだろうという噂が流れる。
自分を殺さずになんで他の人を殺すの!?と思う主人公。

ついにある晩、まー君が小学校に行くのを付けて行く。まー君は主人公の出現にびっくりするが、そのいなくなった男の子の遺体を暴くのを見せてくれる。
何頭もの犬を殺し、そこから出てくる骨。ただし頭がない、と思っていると、まー君がリフティングしていたサッカーボールに首があった。

その後まー君は引っ越してしまうのだが、大人になってから猫の死骸とともに涸れ井戸で死んでいるのが見つかる。

「バット男」

バット男と呼ばれる変人がいた。バットを振り回しているのだが威嚇するだけで、全然人に危害を与えることはなく、反対に逆襲にあってボコボコにされることしばしばであった。
ついにバット男は殺されてしまう。

そんなバット男と寝たことがあるという噂の、主人公の元カノ。
そこから彼女と、その現在の彼氏の話になる。

彼はバスケ馬鹿で、そのために彼女は満たされない。振り向いてほしくて浮気を続けるのだが、ついに妊娠してしまう。
二人は高校を中退して子どもを育てることにする。これで彼女が落ち着くと思いきや、今度は自分の子どもに嫉妬して虐待を始める。
ついには書き置きを残していなくなってしまうのだが、家の押し入れからは血のりのついた、バット男のバットが。

それまでこのカップルの話し相手になっていた主人公の元へ、彼がバットを持って現れ預かってくれ、と言う。
それを断って追い返してからはこの二人との交流が無くなったようで、結末は分からずじまいで終わる。

なんともすっきりしないお話ではあるが印象的だったのが神についての考察。ちょっと長いが抜粋すると;

神話の時代の人間の精神は、もうちょっと自由だっただろうと思う。何しろ神が過ちを犯す世界だ。人間が完璧でなくて当然ならば、皆もっとずっと気楽に過ごせたはずだし、病気と飢饉を怖れて自分を苦しめる地主だの国王だのを憎んでいるだけですんだだろう。でも唯一神の宗教が世界を覆って神の身分が完璧な存在として保護されて、人間は理不尽な倫理観を押しつけられて以前の自由を失ってしまった。そのうえ地上には病気も飢饉も色んな形で残っていたし、地主と国王もそれぞれの名前を変えて人間を苦しめていた。神がパーフェクトになったことで、一体人間は何の良いことを得たのだろうか?神が一人になって絶対になって得たことは、以前にはなかった宗教戦争だけだ。馬鹿馬鹿しい。多神教を取り戻せ、と僕は思う。人は色んなところに神の息吹を感じるだろうが、それを一人の神の御業だとしてまとめるな。(p118-119)

ま、多神教の時だって多少なりとも宗教戦争っぽいのはあったと思うけどね。

「ピコーン!」

3作の中でエンターテイメント的に一番面白かった。スピード感があってパワフルな話。
主人公は学校に行かない、いわゆる“不良”と呼ばれている女の子。
彼氏もやっぱり不良。

でも主人公は、頭はいいので、そろそろ更生して大検取って大学に行こうかと思っている。
自分の彼氏にも更生を迫り、なんとか条件付きで約束を取り付ける。

勉強も始めて、彼氏も条件なしでもまともな生活を楽しむようになったのに、突然何者かに殺され、ひどい格好で道路に転がされていた。
あまりのショックに、自分でさくさくと真相を解いていく、という話。

真相はというとひき逃げ事件だったのだが、その犯人が妄想男で死体に変な細工をしていたというもの。

“ピコーン!”といいながら真相に迫っていくのが痛快だった。

舞城王太郎 「熊の場所」 2002年 講談社

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