NedよりAshleyの方がいい名前な感じがするんだけどなぁ:Stephen Fry ”The Stars’ Tennis Balls”

本業はコメディアンでありコメンテーターであるためか、あまり日本では知られていないStephen Fry。イギリスにいる頃友達に借りて読んだら、軽快で言葉の端々の「この人は本当に賢いんだな!」と分かるような文章にすっかりはまってしまいました。内容は奇妙で、受け入れられにくいかもしれませんが。

そして私にとってのStephen Fryの魅力は、日本人の私にとって分かりにくいイギリスの階級(特に上流階級)の内情が分かるところです。ビクトリア王朝だとかそれ以前の上流階級の話は星の数ほどあれど、現在の上流階級の話ってあまりない気がします。しかも、そんな上流階級に友達もいないものだから、実際彼らの生活やら思想というのはなかなか伺う機会がないものです。

そんなわけで、Stephen Fryの小説は、面白いだけでなくそういう知的好奇心(ただのミーハー根性とも言うかもしれませんが)も満たしてくれるのです。

そんなStephen Fryの本がジュンク堂で売っていて思わず即購入してしまいました。

その”The Stars’ Tennis Balls”は、まさに上流階級と中流階級の内情が見れる本でした。
内容的には、「岩窟王(またはモンテ・クリスト伯)」の現代バージョンで呆れるほどそのまんまの話だったので、この人特有の奇妙な物語ではなかったのですが、いくら下敷きでも「らしさ」というのがよく出た一冊でした。

内容はあまりに「岩窟王」そのままなので、詳細は割愛しますが、舞台はイギリス1980年代。モンテ・クリスト伯役は、当時の首相の息子Ned君。イートン校に通う坊ちゃんで、誰からも好かれ、そして彼女ができたばかり。

それに妬んで彼を陥れるのは中流階級出身のAshley、ただただNedの事が嫌いなRufus、アメリカ人でNedの彼女のPortiaが好きなGordon。Nedのジャケットにマリファナを入れて陥れます。そしてそれを救ったはずのOliverは保身のために彼を誘拐してスウェーデンだかの精神病院に入れてしまうのです。事実上閉じ込められてしまったNedは(しかも精神病患者として!)、一時は我を失いますが、同じような事情で閉じ込められてしまったイギリス人のBabeによって正常な意識に戻され、しかも徹底的な教育を受けます。Babeは驚くほどの記憶力を持っていて、それが仇となって精神病に入れられてしまうのですが、その豊富な知識をNedに受け渡すのでした。

その後も「岩窟王」のように、Babeが死んでしまった機会に脱出し、Babeが教えてくれた銀行口座のお金で大もうけして(IT関係というところが現代だったりする)著名人になり、復讐をしていくのでした。

原作をあんまり覚えていないので、というかそもそも子供の頃に青い鳥文庫シリーズでしか読んだことがないので、「岩窟王」自体がどう復讐していったのかは覚えていませんが、この話の中では、屈辱や絶望の中で死んでいくようにしむけていくのです。

それが、それまでは好印象を持っていた主人公のことを、「え…それはどうなのよ…」と思ってしまうくらいに残酷なのです。

しかも私の乏しい記憶によると(少なくとも映画はそうだった)、恋人だった人(この中ではPortia)の子供は実は自分の子供だった、という設定だった気がしますが、これではそういうわけでもなく、しかもPortiaに捨てられてしまいます。まあ、あの復讐の仕方であれば嫌われてしまう気がしますが、それでもやはりがっかり感がありました。

読み終わった直後は、空しい終わり方だな、という印象がありましたが、それは結局復讐をしたってNedには何も残らなかったからでした。その空白の時代も恋人も結局は元の通りに手にいれることは出来ずに、それだからこそ復讐も徒労に終わった感じがした気がします。

でも今最後を読み返すと、空しさというより寂寥感が漂っている気がしました。結局、Nedだって変わってしまっていて、Portiaが捨てなかったとしてもPortiaとその息子と一緒に住むのが今のNedの幸せではないと感じるからです。それをNed自身が復讐を終えて、Portiaもなくしてから気付いたのではないのでしょうか。だからこそ昔Portiaからもらった手紙を捨て、自分の家だと認識してスウェーデンに帰ってしまうのではないかと思いました。

最後に日本人の私にはまったく分かりえない階級意識について。
Ashleyの日記より;

Firstly the name. Ashley. Ashley. ASHLEY. Write it and say it how you like. It just won’t do. There’s a beery, panatela reek of travelling salesman in tinted glasses and sheepskin car coats. Ashley is a PE teacher: Ashley says ‘Cheers, mate’ and ‘Wotcher, sunshine’. Ashley drives a Vauxhall. Ashley wears nylon shirts and cotton/polyester mix trousers that are sold as ‘leisure slacks’. Ashley eats dinner at lunchtime and supper at dinner time. Ashley says ‘toilet’. Ashley hangs fairy lights around the double-glazed window frames at Christmas. Ashley’s wife reads the Daily Mail and puts ornaments on the television. Ashley dreams of tarmac driveways. Ashley will never do anything in the world. Ashley is cursed.
Mum and Dad gave you that name.
Don’t say Mum and Dad.
Mama and Papa, with the emphasis on the final syllable. Mamah and Papah. Well, perhaps not. That might over-egg the pudding. (Note: Always budding, never ‘dessert’ or, heaven help us, ‘sweet’ . . .) ‘Mother’ and ‘Father’ is better.
Mother and Father gave you that name. And the criminal part of it is that, as a name, it’s just off.

p22-23

(Stephen Fry, ”The Stars’ Tennis Balls”, 2000, Arrow Books)

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