やっぱり推理小説好きだ!!!:法月綸太郎「一の悲劇」

時間つぶしのためにブックオフで買った「一の殺人」by法月綸太郎。

でもその時は読まなくて、しばらく経って、ふと思い出し、夜寝る前に読んだら止まらない止められない。必死で自分をなだめすかして(翌日も平日だったため)、次の日の電車の中も読みふけり、昼休みをそうそう取って一気に読んだのでした。

このところ、珍しく読書不調が続いていたのが嘘のように一気読み。そして読書の楽しさを再確認したのでした。

さてお話の方はというと、例によって名探偵法月綸太郎が出てきて事件を解決するのですが、今回の視点は法月ではなく、被害者目線でした。

事件は、まちがった子供が誘拐され、結果的に身代金受け渡しがうまくいかなくて、子供が殺されてしまうところから始まります。

主人公は、その誘拐されるはずだった子供の父親で、まちがった子供を誘拐したとは気付いていないらしい犯人より子供を救出するために、東奔西走します。ところが最後の最後で足をすべらせてしまい、頭を打って気絶をしているうちに犯人との約束の時間が過ぎて、子供が殺されることとなるのです。
この誘拐事件をややこしくしているのが、この殺されてしまった子供の母親は、遠い昔の主人公の不倫相手で、その母親曰く、その子供は主人公の息子らしいのです。

そして主人公の子供は、実の息子ではなく、妻の妹(つまり義妹)の子供だったのです。妻と義妹は同じ頃に妊娠し、妻は流産した上に子供を産めない体となり、義妹は子供の命と代償に自分の命を落とすこととなったのでした。その結果、心のバランスを崩した妻を助けるために、義妹の息子(つまり自分の甥)を養子として迎えるのでした。もちろんそれに際し、義妹の夫(つまり義弟)が猛反対し、ただでさえ最愛の妻を亡くして気落ちしているところを、その姉妹の父(つまり義父。そして主人公が勤めている会社の社長でもある)の力も借りて、子供を奪い取り、そのために素行が悪くなった義弟を関西へと追いやるのでした。

そんな背景がある中の誘拐事件で、主人公は当然のように義弟が犯人だと確信を持ちます。
ところが彼には鉄壁のアリバイがあったのでした。それが法月綸太郎と一日中一緒にいたというものだったのです。

それでも信じられない主人公は、義弟の家に忍び入り証拠を探そうとしているところを、義弟が帰ってきてしまって、またもや殴られ気絶してしまいます。

そして意識を取り戻した時には、義弟が死体となっていたのでした。

そこから法月綸太郎の力も借りつつ、主人公は犯人探しを始めるのでした。

犯人は、私も怪しいな・・・と思っていた人だったのですが、よく考えたら、登場人物のほとんどを「この人怪しい・・・」と必ず一回は思っていたので、当たり前といえば当たり前でした。

そして、この前に読んだ法月作品でもそうだったのですが、なんとも後味の悪い作品でした。後味が悪いというより、最後に哀しい気持ちというか、やりきれない気持ちが残る作品といった方がいいかもしれません。それは、主人公はある人のために、またその人の(自分も入っていますが)幸福の為に犯人探しをしていたのに、それが全く報われない結果になってしまったせいもあるかもしれませんが、何よりも、その犯罪が犯人の心の弱さから来たものだったからかもしれません。

やはり人間の弱さだとか、人間の暗いところなどを、推理小説に巧みに織り込むとなれば、法月綸太郎の右に出るものはないと思います。

というか、推理小説で犯人もトリックもわかってすっきりするところが、やりきれなさだとか空しさで読了後、ずーんと来るのは彼の小説くらいかも・・・

大体最後に主人公が犯人に語りかける(心の中で)言葉なんて;

 いや、わたしを許すな。わたしを憎め。わたしを愛したことを呪うがいい。わたしは罪深い男だ。愚かな男だ。おまえを愛していると言いながら、おまえの痛みに気づかなかった。おまえに苦しみを与えていながら、それに気づかぬふりをした。とうとうおまえを見殺しにしたのだ。一生をかけても、償いきれるものではない。ならば、おまえの憎しみを引き受けよう。おまえひとりではない。わたしに関わって不幸になった者、死んでいった者、全ての憎しみと怨念をこの身に課すがいい。

p340

暗い、暗すぎる!!!
やっぱり法月綸太郎は「悩めるリンタロウ少年」だ・・・

(法月綸太郎 「一の悲劇」 平成8年 祥伝社文庫)

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