京都に来てしまったピエールの恋の行方が何気に気になる:柴田よしき「ワーキングガール・ウォーズ」

花咲探偵シリーズにすっかりはまった私が読書友達に柴田よしきを勧めたところ、彼女は花咲シリーズでなく「ワーキングガール・ウォーズ」を読んだらしく、逆に勧められた一冊。そういう点でも読者仲間は重宝重宝。

主人公は37歳・独身・キャリアウーマンと言ったら聞こえはいいが、要するにお局も超えた墨田翔子。
お昼はいつも一人。皆に嫌われていてもどこ吹く風で、小言をいいまくる。

ところがあることがきっかけで、たまりに溜まっていたストレスを発散する目的で、オーストラリアのケアンズにペリカンを見に行くことにする。

もともとは行く気がなかった翔子だが、行くのを決心したのはケアンズ在住の嵯峨野愛美からのメーリスを通してのコンタクトがあったからだった。
かくして翔子と愛美はケアンズで出会うわけだが(愛美は添乗員)、ある騒動をきっかけに大泉嶺奈も交えて3人仲良くなるのだった。

話はテンポよくぽんぽんと進み、登場人物の本音が出ているのだが、それがネチネチすることはあまりなくあっという間に読み進める。
交互に翔子と愛美の視線から語られるのだが(なぜか嶺奈の視線はない)、やはり翔子の視線が面白い。特に部下をいじめるところとか・・・と思うのは、私が翔子の意地の悪さに共感できちゃってる証拠なのだろうか・・・

でも;

 面白みのない女。
 そういうことなんだろうか。
 ただエルメスだというだけで十数万円を布製のたかがトートバッグに費やせる感覚は、面白みというのではなくて滑稽と呼ぶのだ。そうあたしは信じている。…(中略)…
 信念はあったが、そうやって自分は正しいと思い込めば込むほど、疎外感が深まるのはどうしようもなかった。そして、最近では、そんな疎外感を楽しむこともおぼえてしまった気がする。ファッション雑誌で誇らし気にエルメスを下げている若い女の顔に、馬鹿女、と声に出して呟いてやる、その快感

p27-28

なんて、確かにエルメス云々は共感を持てるのもあるからかもしれないが、その開き直り具合にいっそ清々しさを感じてしまう(実際にそれに快感を覚えたらオワッテルと思うが、自分に為しえないことを主人公がやってのけてることへの読者の快感というものがあると思う)。

ただこの視線の交差は面白いことに、あまり二人が出会っている時のシーンがない。しかも愛美が翔子を見る(考察する)ことがあっても、翔子が愛美を見ることがない。

なので、翔子の姿形がどんなであるかとか、翔子が相手にどんな印象を与える人かはわかるのに、愛美のことはその内面ばかり知って、外側が全く読者には分かり得ないのだ。
それがちょっとひっかかっていたのだが、最後の藤田香織さんの「あとがき」を読んではたと気づいた。

そっか!これは翔子の話なんだ!!
愛美も人生のあれこれを悩んでいるけれども、それはほんの愛美の人となりの紹介にすぎなくて、愛美は翔子を客観的に見るという位置づけだったわけだ。

そうなると、この小説がもっといきいきとしてきて、翔子がケアンズに行ってからちょっとずつ変わっていく様子に厚さができた気がした。

まだまだ修行が足りぬ。

(柴田よしき 「ワーキングガール・ウォーズ」 平成19年 新潮文庫)

コメント

タイトルとURLをコピーしました