表紙の女の人がなかなか不細工と思ったらトロガイだったみたい:上橋菜穂子「夢の守り人」

またしても一気に読んでしまった守り人シリーズ第三弾。
まあ 児童書というのもあるが、1日で読み終わってしまった「夢の守り人」。

このシリーズの醍醐味の一つは、その世界の死生観や信仰について細かく設定していることだと思う。例えば;

 人のなかには、ふだんは目にみえぬ糸でむすばれている〈生命(いのち)〉と〈魂〉とがある。
 〈生命〉は、人が死ぬと別の生き物の胎内にやどって新たな魂とむすびつき、永遠にこの世をめぐっていく。
 〈魂〉は、さまざまなことを思い考える〈心〉で、夢をみるのもこの〈魂〉だ。
 たいていの夢は、〈魂〉が、さまざまな記憶やら欲望やらをまぜこぜにしてうみだしているにすぎないが、ときに、〈魂〉は、身体(からだ)をぬけだして異世界を旅することがある。そういうときにみた夢は、だから、別の世界でほんとうにおこったことなのだ。
 人が死ぬと、生命とむすばれていた糸が切れた〈魂〉は、一度あの世へと吸いこまれ、前世のすべてをわすれてから、新たな〈魂〉になってこの世へうまれでてくる。

p44-45

というのは、びっくりするくらい独創的ではなく、なんとなく耳馴染みのあるような感じだが、だからこそ受け入れやすい。そしてちょっと親近感があるせいで、架空の世界の物語が、夢物語のようなふわふわしたものではなく、人が本当に住んでいるsolidな世界に見えてくるように思う。

なにはともあれ、今回の話はこの〈魂〉、〈生命〉、そして夢がキーワードとなっていた。

舞台は1作目と同じ新ヨゴ皇国。今回はバルサの幼馴染でトロガイの弟子、タンダが大活躍する。
眠りについて何日も目覚めないという奇妙なことがタンダの姪に襲う。しかしそれはタンダの姪だけではなく、有名どころでは新ヨゴ皇国の一ノ妃、はてまでは1作目で出てきたチャグムも襲われてしまった。

それはどうやら、向こうの世界・ナグムに咲く夢の花が芽吹き、種をつけたからのようだった。
タンダは姪を助けるべくその夢の世界に入り込むのだが、逆に花にだまされて人鬼となりこの世界に戻ってきてしまった。なんとか意識を守る呪いを唱えたおかげで、意識はその夢の中にとどめることができ、そこで夢にとりつかれているチャグムに出会う。

チャグムは帝になりたくないのに、第一皇子が亡くなったため王位継承者になり、バルサやタンダ、トロガイと別れを告げなくてはいけなくなってしまったのに対して悲しみを抱いており、そのため夢に捕らわれてしまったのだ。そんなチャグムを必至で説得したタンダは、チャグムをもとの世界に戻し伝言を頼むのだった。

さて、そもそもの原因はというと。
花の受粉に蜂や風が必要なように、この夢の花にも風となるこちらの人が必要で、それがバルサが偶然助けたユグノのだった。小さい頃から、その夢の世界に通っていたユグノだったが、あることをきっかけに通うことを止めてしまい、それが原因で花の受粉時期や種をつける時期を知ることができず、それが故に、花に捕らわれた人々が帰ってこれなくなったのだ。

ところがこのもっと根底となる原因は、一ノ妃のわが子を亡くした悲しみにあった・・・

一作目で出てきたチャグムが、夢に捕らわれるくらい悲しみを抱いていた、というのはなかなか胸のつまされるものだった。

しかも最終的に、バルサ、トロガイ、タンダに会うことはできたが、またチャグムは宮殿に帰らなくてはいけなくて、その悲しみを癒される結果になることはなく、それが妙に現実的だった。

早く次の巻が読みたい

(上橋菜穂子 「夢の守り人」 2000年 偕成社)

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