この本の印税があれに使われると思うと・・・:三浦しをん「まほろば駅前多田便利軒」

尊敬と親しみをこめて、三浦しをん“姉さん”と勝手に呼んでいる私だが、実を言うと彼女のエッセイ以外のもの(つまり小説)をほとんど読んだことがない。大いに“だめじゃん!”という状態なのだが、まぁなんというか、エッセイから入った小説家ってなかなかその人の作品に手がのびないものなんだよぁ
そんな言い訳をしておきながら、本屋で「まほろば」が目に留まって、その帯に「直木賞受賞作」とでかでかと書いてあれば、日ごろの後ろめたさも手伝って即買いしてしまった。

面白かったですよ、しをん姉さん!!!!とどこまでも慣れ慣れしいが、いやほんと、結構面白かった。

男二人が主人公、しかも嫌イヤ言いながらもなんだかんだ仲良い、という設定に関しては、彼女の嗜好が垣間見れる気がしたが、それ以外は結構真面目。だからといってものすごく硬いわけではなくて、結構真面目な題材を、淡々というかひょうひょうというか、そういう雰囲気で包み込んでいる感じ。うーん なんか上手く言えないな。

話はというと、主人公の多田はバツ一。昔は勤め人だったが今は便利屋を営んでいる。そこへ高校時代の同級生、行天が転がり込んでくる。行天はものすごく変わった奴で、高校時代に一言も口をきかなかったという、一風変わった時代を持つ。彼もバツ一だが、後々に分かることだが、レズビアンの知り合いに子供を授けるためだった。

時々行天の得体が分からなくなりつつも、多田はなんだかんだ言って行天を受入れ、二人で便利屋の仕事をこなしていく(と言っても行天は役立たず)。

解説などを見る限り、舞台となっている「まほろば市」は三浦さんの住まいである町田市をモデルにしているようだが、それを読んでなるほどと思った。というのは街の情景が、そこに住む人々の営みも含めてものすごくリアルだったからだ。行天という人物やら、「便利屋」という仕事がどこか非現実な感じはするけれども、舞台がリアルだから登場人物もリアルに感じる。それのおかげか、多田と行天に暗い過去があったりするのだが、それが「お話に定番の登場人物の過去」という感じではなく「誰しもなにかしら暗い部分ってあるよね、うんうん」という、実生活で誰かからその人の知り合いの話を聞いている感じがする。

なんだか上手くいえてないが、つまりそういう過去があまり嘘くさくならずにすんでいるのは、舞台がリアルだからだと思う、ということが言いたいのだ。

とにかく、ちょっとシリアスになることもありつつも、そんな深く掘り下がっている訳ではないので、読みやすい上に面白かった。

 失ったものが完全に戻ってくることはなく、得たと思った瞬間には記憶になってしまうのだとしても。
 今度こそ多田は、はっきりと言うことができる。
 幸福は再生する、と。
 形を変え、さまざまな姿で、それを求めるひとたちのところへ何度でも、そっと訪れてくるのだ。

p345

みたいな言葉が重すぎず、軽くなりすぎず書かれているとは・・・さすが三浦しをん姉さん!

(三浦しをん 「まほろば駅前多田便利軒」 2009年 文芸春秋)

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