”悩めるリンタロウ青年”と称される法月綸太郎(綾辻行人の「どんどん橋落ちた」参照)。いつもは哀切漂う小説が多いが、このミステリーランドシリーズのタイトルが「怪盗グルフィン、絶対絶命」。
どうしたんだ!? リンタロウさん!! と思って、さっそく借りてきた。
いつもの鬱々とした感じから一変して、舞台がアメリカのせいかやたらポップな感じ。
例えば主人公の怪盗グリフィンが銃に撃たれてから意識を取り戻したシーン。
…(中略)…血圧と体温をチェックしてから、ドクターは満足そうに言った。「あなたはラッキーな患者だ。」
p92-94
「まさか。ぼくは銃で撃たれたというのに。」
「命中したのは一発だけです。…(中略)…脾臓を貫通。あなたはすぐこの病院へかつぎこまれ、脾臓の摘出手術を受けました。」
「―脾臓(ここに傍線)?」
「…(中略)…でも心配はいりません。…(中略)…盲腸を切るのとおなじで、今後の生活に支障をきたすこともないでしょう。」
グッバイ、ぼくの脾臓。喪失感をよそに、ドクターはつづけた。
こんなカラッとした軽口なんて、他の法月作品には見られない気がする(私の覚えている限り)。
肝心な話はというと、タイトルから察せられる通り、怪盗グリフィンが主人公。
絵をメット美術館の絵が贋作なので、それを真作とすり替えてほしいという依頼が来る。それの手口がなかなかスピードも速く面白かったのだが、それはただのグリフィンをつる餌でしかなく、あっさり終わってしまった。
本題は、CIAの要請でカリブ海に浮かぶボコノン共和国へ忍び込み、大統領と共に独立に導いた将軍が所有する土偶を盗んでくる、という話だった。
基本的には007っぽくてなかなか面白かったが、ボコノン共和国の歴史部分がどうにもこうにも退屈だった。突然話のテンポが減速しどうにもこうにも、辛抱の足りない子供だったらほっぽりだしそうな勢いだ。それを乗り越えた先が面白かったので良しとするが。
このミステリーランドシリーズ。もうすでに何冊か読んでいるが、皆アプローチの仕方が違ってなかなか面白い。綾辻行人のように子供向けとは思えないくらいいつもの調子であったり、有栖川有栖のようにやけに子供子供していたりと。
法月綸太郎の場合は有栖川有栖よりだが、なんだかいつもの法月氏の調子を突き破って違う姿を見せてくれた感じがする。
そんなこんなでミステリーランドシリーズ、なかなか面白い企画だとつくづく思った。
(法月綸太郎 「怪盗グリフィン、絶対絶命」 2006年 講談社)
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