表紙のちよがあんまり美人でなくてとてもよろしい:荻原浩「押入れのちよ」

何かの本をamazon.co.jpで検索している時に“これを買った人はこんな本も購入しています”みたいなリストに載っていたのが「押入れのちよ」だった。
まんまとそれにはまって興味を持ってしまったが、amazonでカートに入れる代わりに、“読む本リスト”に追加、そして図書館で借りると相成りました。わはは

「押入れのちよ」は短編集で以下の作品が収められている。

「お母さまのロシアのスープ」

  舞台は中国の僻地(多分)。ロシア人の母親とその双子の娘が住んでいる。その娘の一人の視点で綴られる。

「コール」

  男・男・女の大学生時代からの友達3人組。定番のようにその女を二人は好きになる。告白権をめぐってポーカーをするが…。ということをその二人の男のうち一人が語っている。

「押入れのちよ」

  格安のアパートを借りる。そこの押入れには着物を着たおかっぱの少女の幽霊がいた。

「老猫」

  叔父が亡くなり、その家を継いだ甥家族。そこには老猫がいて、甥は段々家族がその猫によって乗っ取られていくのを感じる。

「殺意のレシピ」

  不仲の夫婦。ある食卓でお互いがお互いを殺そうとする。

「介護の鬼」

  姑の介護が終わったと思ったら、今度は舅がぼけてしまった嫁。ぼけたことをいいことに、散々いじめるが…

「予期せぬ訪問者」

  突発的に愛人を殺してしまったところへ、清掃のサービスと証する男がやってきて、部屋を掃除すると言ってきかない。

「木下闇」

  その昔、田舎に住む親戚を訪ねた先で妹が行方不明になってしまった。大人になってその田舎に立ち寄った主人公。そこで妹の行方を突き止める。

「しんちゃんの自転車」

  夜中にしんちゃんが自転車をひいて遊びにくる。ところがそのしんちゃんはすでに死んでいる。

作者の荻原浩氏の本は初めて読んだのだが、なかなか面白かった。

ただ何度も書くが、やっぱり短編集は苦手だった。毎度毎度そう思うなら読むな!という感じなのだが、興味を持っちまうのは仕方ないんだよな。

Amazonには「ホラー小説」とカテゴライズされていたけれども、作品によってはホラーというより「怪奇小説」といった方がいいような気がするものもあった。というか、所謂“ひゅ~ドロドロ”的な怖さはあんまりない。

逆に幽霊が出てくる話(「押入れのちよ」「コール」「しんちゃんの自転車」)は、怖いというよりもなんだか暖かな話だったりした。表題作の「押入れのちよ」なんてまさにそうで、ビーフジャーキーをかじる幽霊・ちよの姿を思い描くとなんだかほのぼのとしてしまった;

(ビーフジャーキーを握り締めながらおにぎりを食べるちよ)

「どこから来た?このマンションの子か?(注:主人公はまだちよを幽霊と知らない)」
 意味がわからないというふうに小首をかしげる。言葉を換えてもう一度聞いた。
「おうちはどこ?」
「かわごえ」
 川越?埼玉県だったっけ。
「なんでここにいる?」
 かしげた首が四十五度になった。
「家族は?」
 六十度になる。

p83

なんかかわいいでないか。
「お母さまのロシアのスープ」や「コール」は一人称ならではの、一転二転と話の展開が成されていて、それがとても小気味良く面白かった。そのよさを語るには結末を語らなくてはならず、そうするとこの話を読むときに面白さが全くなくなるので、ここでは語らないでいよう。

今度はこの作者の長編を読みたいと思う。

(荻原浩 「押入れのちよ」 2006年 新潮社)

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