この話をどうやって舞台化したのかが激しく気になる:三浦しをん「風が強く吹いている」

「まほろば駅前多田便利軒」でようやく三浦しをんさんの小説にも興味を持ったわたくし(その前の「格闘するものに○」とか「白いへび眠る島」を読んだ時は興味を持たなかったのか、というのは…むにゃむにゃ)。山口晃という画家が好きなのもあって、彼が装丁している「風が強く吹いている」を手にとってみた。

すんんんんっごい面白かったぁあああ!!!

この本の題材となっている「箱根駅伝」というものには、まったく興味を持たず今まで見たことがなかったのだが―そして今もあんま見たいと思わないのだが―、この小説がこんなに面白いのってなんだろう?と思う。

まずキャラが面白い。

寛政大学(多分取材している法政大学から名づけたのでしょう)の実は陸上部の寮となっているオンボロ竹青荘。破格の値段でそこを借りている生徒10名は、約1名を除いて陸上部の寮とは知らずに暮らしているのだが、その残り1名の策略(?)により「箱根駅伝」に出ることになる。

新たに入ってきた走(かける)留年生ニコチャンと、発起人であるハイジ以外は陸上未経験。ところがハイジの巧みな話術と指導によって9人は「箱根駅伝」を目指し、ついには完走・シード権を獲得することとなるのだ。

というのがざっとしたお話なのだが、この10人が個性あふれる。以下が10人で括弧内は表紙で山口晃が各キャラの横に書いてある言葉;

1区:王子(鬼だよ あんた) 全くの未経験。一番遅い。漫画大好きでその蔵書量で床が抜けそう。顔が良いのに3次元に興味なし。

2区:ムサ(黒人が速いというのは偏見です) 留学生。とても丁寧な日本語をしゃべる。穏やかな人。神童と仲が良い。

3区:ジョータ(モテるんだね?) 双子の兄。

4区:ジョージ(モテるんでしょ?) 双子の弟。二人ともサッカー経験者。二人はいつも一緒で、明るく朗らか。天真爛漫な感じだが、何気に走やハイジと険悪なったこともある。本気で1番を狙ってた。

5区:神童(親も喜ぶと思うんだ) 田舎から上京。思慮深い。田舎育ちなので山道に強い。

6区:ユキ(やるからには狙う) すでに司法試験に合格済。剣道をやっていた為、下半身が強いということで下り坂の6区をまかされる。データ分析をしながら理路整然とやるのが得意。

7区:ニコチャン(一人じゃ襷はつなげねぇよ) 留年生。陸上経験有といえども、今や貫禄のあるヘビースモーカー。禁煙しダイエットもして駅伝に臨む。

8区:キング(就職安泰ってホントだな?) クイズが大好きでクイズ王=キング。

9区:走(すぐに行きます 待ってて下さい) 走るのに関しての天才児。陸上の名門高校にいたが、管理された中で走るのを苦手とし、最終的に不祥事を起こしてしまっていた。

10区:ハイジ(君たちに頂点をみせてやる) 陸上をしてたが足の故障で断念。走に出会ってから駅伝の夢をかなえようと、言葉巧みに住人達を誘導。

なんだかプロフィールを並べただけで、個々のユニークな性格がいまいち表れていない気がするが、とにかくぷっと面白いのだ。

「おい、走」
 ニコチャンもやはり、走のことをいきなりしたの名で呼び捨てにした。「俺はいま、ものすごいことに気づいたぞ」
「なんですか?」
「おまえたち三人、名作アニメの登場人物と同じ名前だ!」
「はあ……」
 …(中略)…ニコチャンは二本目の煙草を挟んだ指で、清瀬(ハイジのこと)、走、ユキを順繰りに示す。
「ハイジだろ。走は蔵原だからクララ。そして、ヤギのユキちゃん。ほらな?」
「勝手にひとをヤギにしないでください」
 清瀬との話を終えたユキが、ニコチャンを一○四号室へ押しやった。
「俺のことはペーターと……」
 と言っているニコチャンを無視して、一○四号室のドアを強引に閉める。怒りに燃えたユキは身を翻すと、そのまま自分の部屋に籠もってしまった。一○二号室のドアも乱暴に閉められ、暗い廊下には煙と音楽の名残だけが浮遊した。

p30-31

なんていうのから分かるとおり、ちょっと漫画的なキャラ付けの仕方をしているような気がする(展開がちょっと漫画っぽいというか)。ハイジがあまりにできた監督ぶりでいまいち人間味に欠けている気もする。だけどそんなのはほとんどマイナスポイントとならない。

多分それは、ハイジと走との運命的な出会いから箱根駅伝まで、丹念に描かれているからだと思う。
言ってしまえば、この話は箱根駅伝に出場するってだけの話なのだが(途中で予選と合宿だとかのイベントもあるけど)、毎日の練習風景まで本当に丹念に書かれている。それが飽きちゃいそうだったりだれたりしていないのが、作者の力量ってやつなんでしょう。

読み終わってすぐ書いているせいで、まだ書き足りない気がしてならないが、長くなってきたのでとりあえず終えておこう。

本当に面白かった!!!

(三浦しをん 「風が強く吹いている」 2006年 新潮社)

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