それにしても兄弟の名前が適当すぎる:舞城王太郎「煙か土か食い物」

小学校からの仲の本友達というのがいるのだが、関西と東京と住む所が違えども面白い本情報は交換している。それで教えてもらったのが舞城王太郎。しばらく「玉太郎」と読み間違えして、検索に苦労したのはご愛敬。

まず、処女作の「煙と土と食い物」を読んだ。

さすが友よ、趣味が似てるよ。面白いよ、この本。

あらすじには、「アメリカ/サンディエゴ/俺の働くERに凶報が届く。連続主婦殴打生き埋め事件。被害者は俺のおふくろ。」と書いてあったので推理小説かと思ったら、確かに推理小説っぽいが、どちらかというと前述の文に続く「ヘイヘイヘイ、復讐は俺に任せろマザファッカー」の一文に凝縮されているものだった。

つまり、謎解きのような推理小説が本来持つ面白さというよりも、話がスタイリッシュにぐいぐいと進んでいく面白さを持つ本だった。
主人公はサンディエゴのERで働く不眠症気味の四郎。母危篤の知らせを受け日本は福島の実家へと戻る。

四郎の上には兄が三人おり、上から一郎、二郎、三郎と続く。彼らの父親は政治家で、つまりその街の名士の一家だった。

母親は連続主婦殴打生き埋め事件に巻き込まれて昏睡状態にあった。その事件というのは、まず後頭部を鈍器で殴られ、家の庭に生き埋めにされるというものだった。
その時に人形も一緒に埋められていたり、体全部がすっぽり埋められるのではなくて、一部飛び出ていたり、と奇妙な事件でもあった。

それを四郎が、警視庁で働いている元同級生を東京から呼び出したりなんかして、事件の解明へとつなげていく、というのが話の本筋だ。というか、話の本筋のはずだ。

というのは、実際は、話の半分くらいが事件の解明というより四郎の家の話となっている。
またその話がすさまじくて、ずいぶん昔に失踪してしまった兄・二郎と父親の確執が綴られているのだが、語り口調も鮮やか。本当に先へ先へと進む。

そして途中から事件なんてどうでもようなって、家族の結末ばかりが気になったりもしちゃうし。
当然のことながら、その失踪してしまった二郎とこの事件がつながりを持っていて、そう言ってしまえば平凡な話になってしまうかもしれない。でも、この本の最大の魅力は、文体にあると思う。とりあえず面白い。

冒頭から面白いのでちと長いが抜き出すと;

 サンディエゴにはおよそ三百万の市民がすんでいるが、そいつらがどういうわけだかいろんな怪我や病気を背負い込んでホッジ総合病院にやってくるから、ERにいる俺は馬車馬三等分くらいハードに働いてそいつらを決められたところへ追いやる。チャッチャッチャッ一丁上がり。チャッチャッチャッもう一丁。やることもリズムも板前の仕事に似ている。まな板の上の食材を料理するときのチャッチャッチャッチャッ。板前と違うのは奴らが切り開いたり切り刻んだりするだけのところを、俺達は最終的に全部元通り縫い合わせてしまうというところだ。何かを一旦メチャクチャに傷付けてそれをまた元通りに戻すなんて作業をするのはこの世で外科医くらいのものじゃないか?多分そうだ。俺はこの仕事が好きだ。人の怪我を治せることが嬉しいんじゃない。忙しいからだ。俺は忙しく働いて手を動かしなが歩き回ったり走り回ったりするのが好きなのだ。俺は腕がいいからチャッチャチャッチャと目の前の仕事をこなしている間にいくつか立て続けに命を助けることがあるので、そうなると自分が神になったような気がしてくる。この世の唯一神というわけじゃない。ギリシャ神話やローマ神話に登場するような大勢の神の一人だ。医療の神。治癒の守護神。どんな奴でもかかってこい。

p6-7

この句読点のなさと改行のなさ! 読みにくいはずなのに、なんだか勢いがあるように見える。
舞城王太郎を読んでいきたい。

(舞城王太郎 「煙か土か食い物」 2001年 講談社ノベルズ)

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