挿絵が違う人だったよ:上橋菜穂子「虚空の旅人」

家の近くの図書館と、会社の近くの図書館に何度も通ってチェックしていたのに、なかなかなかった守り人シリーズの次巻。

ある時外部から図書館データベースに検索をかけたら「貸出可能」になってるではありませんか!!!!
慌てて図書館に行きましたとも!

というわけで「虚空の旅人」をむさぶるように読んだ。守り人シリーズの外伝となっていて、バルサやタンダは出てこない。その代わりといっちゃあなんだけど、チャグムが主人公として活躍する。
チャグムはいつの間にか政調していて14歳になっていた。それでもってしっかり皇太子としての政務をこなしていて、本書ではその一貫として隣国のサンガル王国へ〈新王即位ノ儀〉に参列するためにやってきていた。

本書を通して、また一段とチャグムは成長するのだが、特に最後の星読み博士でありチャグムの相談者であるシュガに言う言葉がすごい;

「わたしは、あやうい皇太子だな。…(中略)… ゆるせよ、シュガ。このあやうさゆえに、わたしはいつか、そなたをも破滅へとひきずってしまうかもしれない。―そうなりそうだと感じたら、いつでも手をはなせ。わたしはけっしてうらみはしない。そんなときがきたら、むしろ、そなたには生きのびて、わたしとは別の方法で国をよくしていってもらいたい。…(中略)… わたしは、あえて、このあやうさをもちつづけていく。天と海のはざまにひろがる虚空を飛ぶハヤブサのように、どちらともかかわりながら、どちらにもひきずられずに、ひたすらに飛んでいきたいと思う。」

p355-356

と言ったかと思うと、とどめには

「……そなた(シュガのこと)の才能を、まつりごとだけにすりへらすな。驚きをもって異界をみるまなざしを、けっしてくもらせないでくれ。」

p357

なんて言っちゃうなんて、本当に14歳か!?という感じもしないではないが、成長したチャグムを見るのは、ちょっと寂しくもあり何故か誇らしくもある。昔読んでいた“建築探偵桜井京介シリーズ”の中の蒼が大学生になっちゃった時に感じたものと似てる気がする。

それはともかく。チャグムがやってきたサンガル王国はいくつもの島から成り立つ王国で、島守りと呼ばれる各島の領主と、王族の娘たちが婚姻関係を結ぶことによってまとまっている。

さて〈新王即位ノ儀〉に各国の要人が集まった頃、カルシュ島の娘が〈ナユーグル・ライタの目〉となってしまった。この〈ナユーグル・ライタの目〉の“ナユーグル”というのは、タンダ達が言う“ナユグ”と似たようなものらしく、サンガル王国では海の底にあるという。そして“ナユーグル・ライタ”というのは海の民のことで、その“ナユーグル・ライタ”は時折海上の世界、つまりこの世をのぞきにくるというのだ。

その方法というのが、この世の人間の魂を吸い取り、体を乗っ取って来る、というもの。

もし“ナユーグル・ライタ”がこの世の悪しき物を見てしまったら、海の神の子である彼らは海の神にそれを伝えてしまい、その結果この世が滅びてしまうことになる。

というわけで、人間は乗っ取られた“ナユーグル・ライタの目”を丁重にもてなし、その魂を返すということでその乗っ取られた人間を海に落とすのが習わしだった。

想像通り、チャグムはなんとかこの〈ナユーグル・ライタの目〉を助けようとし、それだけでなくサンガル王国の謀反の危機を助けと奔走するのだった。

あのバルサやタンダやトロガイを慕って、自分の身分を憎むチャグムが一皮成長し、サンガル王国の危機を助ける為に、他国の王と交渉しにいくシーンなんて、“チャグム、本当に偉くなったねぇ”とどこかのおばさんよろしくジーンとしてしまった。

これからもチャグムから目が離せない!

(上橋菜穂子 「虚空の旅人」 2001年 偕成社)

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