肩・背中凝り性の作家って、お気の毒としか言えない:奥田英朗「野球の国」

奥田英朗のエッセイ第2弾。

出所を覚えていないが、読む本リストに「泳いで帰れ」とともに「野球の国」が書かれていたのと、「泳いで帰れ」が結構面白かったのとで、他館にあったのを近所の図書館で取り寄せてもらった。
正直、野球に対してそんなに情熱がないし、ひいきのチームもないので、話についていけるのか、というところからして不安だったのだが、「泳いで帰れ」の時もオリンピック話とはいえほぼ野球の話だったしなぁと思って読み始める。

「泳いで帰れ」の奥田英朗の印象は、軽快な語り口で時々サクッといい事を言うって感じだったので、「野球の国」の第1章“沖縄編”を読んだ時には驚いた驚いた。終始暗い感じで、鬱気味な言葉が連なる。例えば;

 わたしがメディアを避けるのは、わたしの神経が、すっかりやわになってしまったからである。
 ゴシップ週刊誌の広告の見出しを見るだけで憂鬱になる。人の悪意と、嫉妬と、欲望に、たじろいでしまう。そういう自分の弱さが、いやになる
 沖縄にいると、普通にテレビが見られる。東京との距離が関係しているのだろうか。「どうせ内地の出来事よ」と、余裕でいられるのだ。

p35

とまあ、これはまだちょっと明るさがあるが、ずっとこんな感じ。
何せエッセイを1冊しか読んだことがないのだから、もしかしたら「泳いで帰れ」がオリンピックってことで浮かれていたのかもしれないし、と思っていたら次章の”四国編”にて編集者の人たちに心配されていたので、やっぱり普段の彼からしたら暗かったんだ、と納得。

でも不思議なことに、そんな側面を知ると「一体彼の書く小説はどんなものなのか!?」と興味を覚えたりして。

さてさて内容の方はというと、タイトルが表すとおり、野球の話のみ。
奥田氏が地方で行われる試合を見にあちこちに行く、旅行記+野球鑑賞記みたいな感じ。具体的に言うと、「沖縄編」「四国編」「台湾編」「東北編」「広島編」「九州編」となっている。

でも旅行記とは言っても奥田氏が行うのは、どこに行ってもマッサージとか映画鑑賞とか野球鑑賞のみ、大して代わり映えはない。
それでも面白い!と思って飽きもせずに読みきったとなると、月並みではあるが素直にすごいな~と思った。

好きだな、と思った文章を抜粋すると;

〈四国編〉

(路面電車に乗って)ブリーフケースを提げたビジネスマンと、古風な電車のミスマッチが楽しい。生活の足として、溶け込んでいる。
 窓から松山城が見えた。城下町は安定感がある。殿様がいなくなっても、誰かに見守られている感じがするのだ。

p75

<台湾編>

(故宮博物院にて)いきなり魅せられた。胸が躍った。
 いいのである。ポップで。中国美術はポップアートなのだと、今日はっきり認識した。瓶に三本の脚をつける。これはオチャメでしょう。曲面に突起を並べる。これはオタクの業でしょう。

p142

なかなか斬新な見方!

〈広島編〉

 以前何かで読んだのだが、食欲や性欲とならんで、人間の本能の中には「面倒くさい」という欲望もあるのではないか、と説を唱えていた人がいた。
 全面的に支持したい。わたしにとって「面倒くさい」は立派な動機だ。

p190

I agree too!

<九州編〉  

家族を養うでもなく、任務を与えられているでもなく、世に無用の小説を書き散らしている―。  もしもこの国が火星人の襲来に遭ったら、わたしは命を賭して戦う覚悟でいる。それが好き放題に生きている人間の「社会的責任」だ。堅気衆に犠牲を強いたりはしない。銃を手に立ち上がるのはわたしだ。  だから火星人さん、当分、来ないでくださいね。

p218

ただただ笑い

(奥田英朗 「野球の国」 2003年 光文社)

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