京大出身作家ってなんでかなんとなく分かるのはなぜだろう:森見登美彦「夜は短し歩けよ乙女」

友達に強く勧められ、本屋さんに行けば山積みとなっている。それが「夜は短し歩けよ乙女」だった。
しかもタイトルもいい。「夜は短し歩けよ乙女」。口にすると調子よくてますます期待は高まる。ちなみに表紙もめっちゃ好みだ。

それなのに本屋さんでお買い求めにならなかったのは、”ポップなラブ・ストーリー”的なことが書かれていて躊躇したのと、山積みされていたため天の邪鬼な部分がむくむくと出てきてしまったからだった。
というわけで、図書館で借りましたよ。

蛇足だが、これを京都に行く前日、奈良で読み終えた。舞台は京都、作者は奈良出身、ということで「これを読むのになんて絶好なシチュエーションなんだ!」と妙に悦に入ってしまった。

それはさておき、本書は連作のような形で、大学の先輩(男)と後輩(女)の恋模様が描かれてる。
といっても、彼女の方はさっぱりで、先輩の奮闘記といっていいだろう。先輩と後輩の視線が交互に描かれているのだが、本当に小憎い描き方がなされているのだ。

例えば、最初の先輩→後輩のシーンでは;

 そこで私は彼女を見失う。
 …(中略)…
 かくして私は早々と表舞台から退場し、彼女は夜の旅路を辿り始める。
 ここから彼女に語って頂くとしよう。

p12

そして次に先輩が出てくる時には「読者諸賢、ごきげんよう。」(p53)と始まり、1章の終りには;

 ついに主役の座を手にできずに路傍の石ころに甘んじた私の、苦渋の記録はここにて終わる。涙をのんで言う。さらば読者諸賢。

p69

となる。
と、確かにポップな感じで軽快に不思議な話が紡がれている。

話自体もちょっと不思議系であるが、とにかく不思議な人物がたくさん出てくるので、この独特な雰囲気が作られているように思う。

うわばみのように酒を飲む美人羽貫さん。
職業が天狗だという樋口さん。
よく分からなん人たちのボスっぽい李白さん。
古本市の神様らしき少年。
韋駄天コタツに偏屈王にパンツ総番長。
閨房調査団とその青年部。などなど などなど

なんだか不思議の国のアリスの世界のように、至極まともな先輩とちょっと天然入っている後輩の前に次から次へと奇妙な人たちが現れ、騒動を起こすのだ。

ちなみに、私は樋口さんが気に入った! なんてわかりやすい私!!

文章とこの不思議雰囲気がうまくマッチして、現代の不思議の国のアリス(飲酒含編)を織りなしているのが本書と言っても過言ではないと思う。

一言で言えば「面白かった!!」

(森見登美彦 「夜は短し歩けよ乙女」 平成18年 角川書店)

コメント

タイトルとURLをコピーしました