記憶力の低下のおかげで二度楽しめました:藤原伊織「テロリストのパラソル」

久し振りに会った友達と「テロリストのパラソル」の話になって、話を覚えていないことが判明。
友達は相当好きだったらしく、事細かに説明してくれたのだが首をひねるばかり。でもな~んとなく覚えているし、何よりも「面白かった!」と思ったことは克明に覚えている。

そうなったらいてもたってもいられなくなって、ブックオフにて購入。次の日から会社だというのに、夜更かしして読み終わってしまった。

いや~面白かったよ。

主人公はアル中のバーテンダー。晴れた日の日課である“中央公園でウィスキーを”をしに行くと、そこで爆弾テロが勃発する。
逃げ去った後に、置いてきたウィスキーに自分の指紋をつけたままだったことを後悔する主人公だが、その理由は彼の過去にあった。

彼は東大在学中に大学闘争に加わっていた。その時一緒に籠城した友人二人(男女)がいたのだが、闘争が終わった後、その女の子と一緒に住んだり(同棲ではなかったが)、3人での交流は続いていた。
男友達の方は工場で勤め始め、主人公はボクサーデビューをしたのだが、しばらくして男友達は海外に行くことを決意する。

その出国間際に二人でドライブをするのだが、途中でおんぼろ車のブレーキがきかなくなってしまう。
その時になって、男友達は爆弾を積んでいることを明かす。曰く、闘争中に爆弾を作ってみたのだが、出国の際に始末しようとし、それでこのドライブを企画したのだ。
車を慌てて乗り捨て、周りの人に逃げるように叫んだのだが、その爆弾事件に警察官が巻き込まれてしまったので、テロとして捜査されることになってしまったのだった。

とりあえず主人公は男友達に逃げるよう勧め、海外でほとぼりが冷めた頃に出頭するよう助言するのだった。

そんなこんなで、事故だったのに前歴があるために逃亡生活を余議されなくなった主人公。
今回の事件でまた容疑者になってしまい、逃げながら事件の真相に迫るのだった。

江戸川乱歩賞と直木賞をダブルでとっただけあって、すいすいと読める。

そしてどこか哀愁が漂うのは、事件の真相を迫るのが即ち過去を辿ることとなったからだろうか。とにかくそれが本作の魅力だと思う。

「テロリストのパラソル」というちょっと変わったタイトルは、女友達が詠んだ短歌からとってある(みたい)。なぜかそれが印象的だったみたいで、詳しくは覚えていなかったくせに、爆発後に青いパラソルが空の高いところからくるくる舞い落ちる、というイメージが残っていた。たぶんそれは;

〈殺むるときもかくなすらむかテロリスト蒼きパラソルくるくる回すよ〉(p352)

という短歌から来てるみたいだ。微妙に情景は違うけどね。

ちなみに主人公とつるむことになるやくざの浅井が妙にツボだったのだが、どうも前回読んだ時も同じように感じていた気がしてならない。
高校時代から嗜好(思考)は変わらないのか、私よ。

(藤原伊織 「テロリストのパラソル」 平成19年 角川文庫)

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