天使=男 悪魔=女 バージョンも読んでみたいな:マルク・レヴィ「永遠の七日間」

インターネット上の書評にて“天使と悪魔が出会ってしまったら…?”的な内容が書かれていて、それにつられて“読むリスト”に入れていた「永遠の七日間」。あまり恋愛小説を読まない私としては珍しい。

それでその後、Amazonの内容紹介で“天使と悪魔”という単語は出てこないし、内容の欄にも「愛は人を育てるのか、人が愛を育てるのか―。嘘を知らない女と真実を語らぬ男。二人の出逢いは、神の誤算か、悪魔のたくらみか?今宵、あなたに「めぐり逢い」という名の奇跡が舞い降りる。」と書かれているのみ。あれ?私が期待していたものと違うのか!?と思って、気になって借りてみた。

そしたら、期待通りでしたよ。

主人公はCIAのゾフィアと、初っ端から人の不幸を楽しむなんだか怪しげなルーカス。本性はCIAってのはCentral Intelligence of Angels(ぷっ)ということでゾフィアの本性は天使、ルーカスは悪魔。
そしてゾフィアは上司のミカエルに呼ばれて、ミスターこと神と面会する。そこで語られたのが、悪魔のボス・ルシフェルとの不毛な戦いの終結のため、賭けを行うことにした、その賭けというのは七日間でどちらが多く人間を天使サイド/悪魔サイドに引きずりこめたか、というものだった。

まあ、それでこれはラブコメですので、同じ任命を受けたルーカスとゾフィアは、偶然にも出会い、恋に落ちるわけです。そして、途中でお互いに敵同士だと気づくが、二人の愛は止められない!

でもその賭けの七日間が終わってしまえば、二人はまた別の世界で住まなくてはいけなくなる。ということで、ルーカスが天使の世界に入るために善行を試したり、ゾフィアが悪の道に入ろうとしたりするのだが、うまくいかず、さてはてどうしたものか・・・

あ、これはラブコメなので、やっぱりハッピーエンドです。

最後の訳者のあとがきで;

貴重な休日に、木陰で(あるいは気持ちのいいカフェの一画、もしくはほかのお気に入りの場所で)リラックスして、自分を甘やかすために本を読む。保証してもいい。そういう読書をしたいと願っている人にこそ、この本はオススメだ。

p131

とあるように、頭を空っぽにして読むのに丁度いい小説だった。それでいて本当に馬鹿馬鹿しいわ!という小説でもなく、適度にいい事が書かれている。例えば;

「人間に想像できる無限の善なんていうものはありはせんよ、ゾフィア。なんといっても、善は悪と違って目に見えないものだからな。あれこれ計算して導かれるものでもないし、厚かましくも言葉にされたらその意味も失われてしまう。善というのは、ごく小さな気配りを無限に集めたもので、それがひとつひとつ重なったものが、いつの日か、きっと世界を変えることになるんだよ。だれでもいいから訊いてごらん、世界の流れを変えた人物を五人あげてみろ、とな。そうだな、たとえば民主主義を生み出した者とか、抗生物質の発明者とか、平和をもたらした者とかいるだろ。奇妙なことだが、そういった者の名前まで覚えている人間はあまりいないんだよ。独裁者五人の名前ならば簡単にあげられるのにな。重い病気の名前なら知っているが、克服できた病気の名前は覚えていない。だれもが恐れる悪の極みとは世界の終末のことだが、善の極みについては、だれもが忘れているようじゃないか。創造の日というものがすでに存在しているというのにな。

p92-3

とか、二人が敵対するもの同士で、これからどうしよう?という時につぶやくルーカスの言葉も;

「ベルリンの壁が崩れた日、人間たちはどちらの道もそっくりだと気がついた。壁のどちら側にも家が並び、車が走りまわり、夜にもなれば街灯に照らされる。幸福と不幸は同じようにはいかないが、西側の子どもも東側の子どもも、互いに相手が話に聞いていたのとはまったく違うことに気がついた」

p233

じっくり考えると“そうかな・・・?”と思ってしまうが、読んでいる最中はしんみりしてしまう。
そうかと思えば、ルーカスが受付嬢に“アメリカ人は働きすぎだ。フランスでは法律できちんと労働時間が制御されている”的なことを言うと、受付嬢がそれに反発して;

「…(中略)…フランス人といっても、蝸牛を食べてる人たちじゃありませんか。…(中略)…」(p96)
と言えば、ルーカスも
「あんたはガーリックとバターの味を知らないらしいな。知っていたら、口が裂けてもそんなことは言えないはずだ」

p97

と言い返すのは、作者がフランス人だと思うと“やっぱりフランス人はアメリカ人が嫌いなのね”と思ってぷっとしてしまう。まあ、その後に受付嬢が「ガーリックとバターがおいしかったわ」的なことを言うのはやりすぎだと思うけど。

作者は映画“Just Like Heaven”の原作者らしいが、あの映画と同じく、ラブコメ・エンターテイメントの真髄!という感じで、楽しく読めた一冊だった。

(マルク・レヴィ 「永遠の七日間」 藤本優子・訳 2008年 PHPエディターズ・グループ)

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