どうしても“そうじ”と読んでしまう:上橋菜穂子 「蒼路の旅人」

「蒼路の旅人」の第一感想は、チャグム!大きくなったな!本当に偉いよ!! とちょっと近所のおばさんモード。

いやぁ~ チャグム、本当に偉い。まだまだチャグムの試練は本書で終わったわけではないので、「頑張れ~ふれ~」という気持ちもあります。というわけで、早く続きが読みたし。

初っ端から次作への期待を書いてしまったが、本書ではチャグムの活躍ぶりが描かれている。
バルサたちと冒険してから早○年(←ちょっと忘れてしまった)。いまやチャグムは15歳の第一皇子として立派に成長した。そして星読み博士のシュガに教育されて人望も厚い。

ところがそれに妬むのが父である皇帝。嫉妬故、チャグムではなくチャグムの弟に皇位を譲りたく思っている。

ああ!いつになっても父親からは疎まれるチャグム!おいたわしや!

そんな皇帝に絶好なチャンスが訪れる。
サンガル王国より援軍の要請が来たのだ。実は今、南からタルシュ王国が攻めてきて、屈強なサンガル王国も苦戦を強いられているのだ。しかし、この援軍の要請は罠に違いない。
そうと分かっていても新ヨゴ皇国としては援軍を出さないわけにはいかない。

そこで皇帝が取った道とは、チャグムの母方の父、つまりチャグムの祖父で彼の後押しとなる海軍の将軍をやるということだった。

それに憤ったチャグムは、すったもんだの末、この援軍に加わることになってしまったのだった・・・
ああ!チャグム! その潔癖がゆえの短慮、チャグムらしいといえばそうなんだけど・・・
結局、覚悟していた通り、それは罠でサンガル兵によりタルシュに引き渡されることになってしまう。その時にチャグムの祖父である将軍は、自分もろとも船を焼く、という哀しいハプニングも起きるのだが・・・

その時に逃げようとするがそれもうまくいかなくて、結局タルシュのスパイ・鷹である元・ヨゴ皇国民であったヒュウゴに捕まってしまう。
ヒュウゴはチャグムに、民を戦火に巻き込まずに平和にタルシュの枝国になることを薦める。どっちにしろタルシュが新ヨゴ皇国を征服するのは変わりないのだから、それを無血で行うかどうかはチャグムにかかっているのだ。その為に父王を殺さなくてはいけない、と言う。

ああ!チャグム!命を狙っている相手だというのに、それでも殺したくないとは、あまりに純真すぎるよ!でもそれがいいんだけどね!!

タルシュの枝国を見て、なんとか打開策を考えるチャグム!
タルシュの王子に会って自信がくじけそうになるチャグム!

そして最終的にとった決断は、やっぱりタルシュに屈したくない。それにはロタ・カンバルと手を結び、三国で迎え撃つしかない!

ということで、チャグムがとった行動とは・・・新ヨゴ皇国に向かう途中に海に落ち、泳いでロタの方へ行く、というものだった!!!

チャグム、行けーーーーーーーー!!!
と妙なテンションでお送りしました、「蒼路の旅人」。

でも実際はそんな荒々しい雰囲気なわけではなく、チャグムが熟考する性格のせいか、浮ついた雰囲気では全然ありません。そこがまたいい!

綿密に練られた設定も本シリーズの魅力だけれども、文章もいい。例えば、チャグムがかっとなって父帝になじるシーンとか;

 そんな思いがつぎつぎに心にうかび、最後に、ひとつの思いが、しみるような痛みをともなって胸にひろがっていった。
(―これほど、あなたはわたしをきらっているのか・・・・・・。)
うすく笑った口もと。かすかに眉をひそめ、目に息子をさとす表情をうかべている父の顔をみるうちに、吐き気がこみあげてきた。
 目のはしで、シュガが自分をみているのは、感じていた。―こらえてくれ、と祈るように自分をみているのを。
 だが・・・・・・こらえられなかった。
 これまで、ためにためてきたものがせきを切ったようにつきあげてきて、チャグムは歯をくいしばって帝をにらみつけた。おさえようもなく、目に涙がしみだした。

P77-78

こういう瞬間って物語的に面白いよな~と思う。思えば歌舞伎の「封印切」に似てるな、このシーン。今まで溜めに溜めていたものが、あふれ出る瞬間。駄目だと理性では分かっていても、感情が理性に勝つ瞬間。それがこんな鮮やかに描かれているのが、やっぱりすごいなぁ~と思う。
あとこの直後の帝の表情の描写もよかった。

一瞬、驚きにゆがんだ帝の瞳に、つぎの瞬間、怒りの色がひらめいた。

P78

う~ん いいよなぁ
(上橋菜穂子 「蒼路の旅人」 2005年 偕成社)

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