旦那の失墜はKの仕業だと思っていたのだが…:荻原浩「ママの狙撃銃」

たまたまAmazonで見つけた荻原浩。その時にひかれたのが「ママの狙撃銃」。
表紙のピンクのポップな感じだし、“一見普通の主婦が実は元・暗殺者で、ある日「もう一度仕事をしないか?」と言われる”というあらすじを読んで、ポップでコメディタッチなものを想像して、面白そう!ととびついたのだ。

ところがどっこい、そんな生易しいもんじゃなかった。
コメディ、というよりも、“暗殺者”というものに重点においたもので、涙が出てしまう類だった。
想像してたものと大分違うが……想像より断然よかった!!!

主人公は、ちょっとというか大分頼りない旦那と、中1の女の子と幼稚園に通う男の子を抱える主婦・曜子。
一見普通の主婦だが人に言えない過去がある。
10年ほどアメリカはオクラホマ州に住む祖父のもとで育っていた。
その祖父にありとあらゆる銃の取扱方法を学ぶのだが、その祖父こそが暗殺者だったのだ。
そんな曜子が最初に暗殺したのは祖父のためだった。
どうやらケネディ暗殺を行ったのは、何を隠そう曜子の祖父だったらしいのだが、それを言いふらそうとした男の始末を言いつかったのだ。

暗殺は成功し、祖父は病死し、曜子は日本に帰ってきて、紆余曲折を経て今の夫と結婚し、子宝にも恵まれる。
そうやって平和な日々を暮らしていた曜子のもとへ、曜子に暗殺話を持ちかけてきたKから電話がかかってくる。もちろん最初は拒んでいた曜子だが、夫が退職してしまったりとお金が要り用となってしまい、結局引き受けることになる。

そうやって曜子が仕事を受け遂行していく様を、オクラホマ時代の記憶などの過去を曜子が思い出す形で交差させながら描いているのは、「殺し屋シュウ」に似ているかもしれない。
でも、まず暗殺者が主婦ってのが新鮮だし、主婦としての曜子の生活があまりに平凡で、それが曜子の暗殺者としての苦悩をひきたてる。

主婦になって初めての暗殺から帰ってきて、わざと置いてきた携帯を開いたシーンなんて涙が出てきそうだった。もちろん、家族は曜子がそんな仕事をしているとは知らないので、同窓会に行ってきたことになっていて、中1の娘が代わりにカレーを作ることになっていた。そんなわけで帰ってきたらメールの受信箱に

『こっちは心配するな。お前がいないから、発泡酒二本飲んじゃお。ゆっくりしてきなよ。でも必ず帰ってきてね (孝平)』
…(中略)…
『ねえちゃんのカレーは辛え~ サラダに生ピーマン! 怖え~ (パパに打ってもらった。秀太)』
 珠紀からもメール。こちらは夕方から夜にかけて何回も。
 19:32 『じゃがいもを煮るのは何分ぐらい?』
 18:55 『ルーはきざんでいれたほうがいいの?おナベにフタをしたほうがいい?』
 18:03 『玉ねぎはみじん切り? くし切り?』
 16:52 『いまマルナカストア。学校からチョッコー。ルーはある? 買わなくていい? サラダにピーマン入れてみてもいい?』

p189-190

と入っていたわけだ。特に珠紀からのメールは妙にツボだった。
まったく普通のメールなのに、読む人読む状況で泣けるツボになるとは、と妙に感嘆してしまった。

表紙とタイトルにだまされてしまった感がある内容だったけれども、いい騙しだったな、と思える1冊だった。

(荻原浩 「ママの狙撃銃」 2006年 双葉社)

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