「グッチのバッグじゃなくて、ドッグのグッチ」が妙にツボ:伊坂幸太郎「死神の精度」

『オーデュボンの祈り』の項で書いたと思うが、もともと伊坂幸太郎の名前を聞いたのは、読書友達からだったけれど、実際に伊坂幸太郎を意識というか“読んでみたいな~”と思ったのは、TSUTAYAで「死神の精度」のDVDを見つけて、その原作が伊坂幸太郎だと知ったから。
「死神の精度」なんてタイトル、妙に惹かれる。というか、死神ネタってなんか好きなんだよね。「ジョー・ブラックによろしく」とか。

図書館で予約して、めぐりにめぐってやってきたのだが、副題(?)となっている”Accurecy of Death”の方がなんとなくいいタイトルな気がする。いや「死神の精度」の直訳と分かっているけど、英語の方がニュアンスとして面白いな。

これは死神・千葉(といっても名前でないらしい。コードネームみたいなもの?)が出会う6人の人間の死をつづった、オムニバスとなっている。

死神の仕事というのは、指定された人間の元へ行き、一週間以内に死にふさわしいか「可」か「見送り」の判定を下すため調査し、「可」であれば8日目にその人は死ぬので、その死を見届ける、というものらしい。物語を羅列すると;

「死神の精度」

 雰囲気の暗い女・藤木一恵がターゲット。彼女は有名会社の苦情係で、この頃妙なクレーマーに悩まされている事を千葉に打ち明ける。それが実は、天才的プロデューサーだった、というのがオチなのだが、千葉は「見送り」にする。実は「見送り」にするのはこの一話のみ。

「死神と藤田」

 やくざである藤田がターゲット。彼は昨今珍しい“弱気を助け、悪をくじく”やくざなのだが、それだけに組織には疎まれていたらしく、親分に設定された仇打ちが、実は仕組まれていて、逆に殺されることとなる。

「吹雪に死神」

 これまでと趣向が変わり、吹雪の中の屋敷にて、人がどんどん死んでいく、という推理小説の典型的パターン(そして私がとても好きなシチュエーション)に、死神が関わるとどうなるか?といったもの。実はこの話が一番好きで、登場人物が;

「そう言えば、閉鎖された島とかで、次々に人が殺されるってやつ、ありますよね。『オリエント急行殺人事件』とか」と〈童顔の料理人〉がぽつりと言った。
「それは違いますよ」真由子が遠慮がちであったが、しっかりと指摘をした。「それは、別の趣向の小説です」

p106-107

と会話するシーンがあるのだが、結末を読んで、ふふんなるほどね、と笑みが浮かんだ。

「恋愛で死神」

 毎回ちょっとづつ雰囲気を変えているのか、これはターゲットが死んでしまうシーンから始まる。ターゲットはブティックで働く荻原という青年。彼は実は前のマンションに住む古川朝美に恋をしている。ひょんなことから、彼女とお近づきになるのだが、そのきっかけともなった彼女につきまとう電話の主(と思しき人)に殺されてしまう。

「旅路を死神」

 ターゲットは森岡という、母親を刺し、道端の無関係な少年を殺した犯人。千葉が指定されたとおり車に乗っていると、そこへ彼が飛び乗ってきて、ナイフで脅しながら十和田湖に向かうよう指示する。ロードムービー調になっていて、そこで彼が幼少期に誘拐されたこと、犯人の一人をこれから殺しにいくこと、そして誘拐の真相に迫るところまでが書かれている。

「死神対老女」

 ターゲットは七十過ぎで現役で美容師をしている老女。千葉は一発で「人間じゃない」と見破られる。この話は今までの集大成のようになっていて、一話目の藤木一恵がその昔、大ヒット歌手となったことが分かるし、そしてこの老女こそ古川朝美だといことが、最後の方で分かる。そしてそれまで千葉が仕事をするときはいつでも雨なのに、最後に晴れて終わる。

全体的に淡々としていながらも、死神・千葉のまとはずれな発言がアクセントとなって物語が進んでいた。
そのまとはずれな発言ってのが、別段笑えるようなコミカルなものではなかったけれども(むしろ結構まじめ)、はっとさせられたり、千葉が死神であるという妙なリアリティを抱かせたりして、スパイス的な役割を果たしていたと思う。こういう発言に、作者の力量というか、アイディアの斬新さがあふれているのが明治されている気がした。

ただ、金城武ってのがいただけないな~

(伊坂幸太郎 「死神の精度」 2008年 文藝春秋)

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