「秒」という名の由来が気になる:恩田陸「不安な童話」

恩田陸の3作目は「不安な童話」。一風変わった推理小説っぽくなっている。

主人公は大学教授・浦田泰山の秘書をしている古川万由子。
彼女は特殊な能力を持っていて、親しい人が浮かべた情景を見たり感知することができる。
ある日、泰山とある女流画家の遺作展に行った時から、万由子の生活が変わる。

その女流画家・高槻倫子は、26年前に浜辺でハサミで刺し殺された。彼女は生前より、自分の死期を感知しており、まだ幼かった息子・秒などに「私は生まれ変わるから」と語っていた。
彼女の死後、ずっと絵は隠されたままで、初めての遺作展となったはずなのに、万由子はその絵を見たことがある気がする。

そのまま気絶してしまうのだが、その展覧会の主催者であった秒が次の日泰山の元へ訪ねていき、輪廻転生の話をしだす。曰く、万由子は倫子の生まれ変わりに違いないとのこと。絵を見て強いデ・ジャブを感じたのはもちろん、倫子にも万由子と同じ能力を持っていたことも明かすのだ。

そして、倫子を殺した犯人を捜して欲しいのだという。
乗り気ではない万由子だったが泰山とともに、今回展覧会にあたり作品を整理している時に見つかったという倫子の遺書をもとに、4人の人に倫子の絵をあげるのについて行くことにする。

その4人とは、倫子がデビューすることになったギャラリーのオーナー・伊東澪子へ「犬を連れた女」、倫子を一躍有名にすることに貢献した事業家・矢作英之進へ「曇り雲」、倫子の高校時代の友人・十和田景子へ「黄昏」、倫子は別荘の側の浜辺で殺されたのだが、その別荘の管理人をしていた手塚正明へ「晩夏」となる。

彼らと会い、倫子の話を聞いていくと、倫子は確かに美人だったが、強烈なキャラクターな人だったことが分かってくる。

そして万由子はぽつぽつ何かの画像が見えたり、展覧会で火事が起きたり・・・

最後は大どんでん返しで、根底から覆される結果となる。
そのどんでん返しのところは良かったのだが、その後がちょっとぐだぐだした感じだったし、腑に落ちない部分もあったが、全体的にとても面白かった。

とにかく、先が先が気になった、一気に読み終えてしまっておかげで今日は寝不足。
大体、輪廻転生して生まれ変わった被害者が犯人を捜す、という第一の構造が類をみないユニークさだと思う。

そして最後のどんでん返し。やっぱりミステリーはどんでん返しの部分が、一番の醍醐味、かつ重要な要となっていると思うのだが、そういった点では良いどんでん返しでした。

それだけに最後の終わり方が蛇足のような気がしてならないが・・・ もっとすっきり、“うぉおお~~”というところで終わって欲しかったというか・・・

全然話が違うのだが、ホットサンドを作るシーンが出てきて、その具が;

帆立、鶏肉、ザーサイ、椎茸という中華風。ハム、レタス、トマト、チーズというアメリカ風。塩鮭、ゴボウ、芹、塩吹昆布という純和風。

p177

といったものだった。味が全く想像できないが、とても興味がそそる。
それで気づいたけれども、今まで読んできた恩田陸の話、あまりご飯の描写が出てこなかったな、と。
そういうのって、作家の食への関心が表れるのだろうか?

(恩田陸 「不安な童話」 2002年 新潮社)

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