表紙の天使がザビエル禿げで、なんか残念だった:高野史緒 「アイオーン」


図書館でぶらぶらしている時に「アイオーン」のタイトルを見つけ、そうだ!読みたいと思ってたんだ!ということを思い出した。ので早速借りてみた。
エピローグが;

 星は夜を彩り、夜はその果てで地に接していた。天と地は、人の目にはいつでも共にある一対のものだが、どこまで歩いても、どれほど遠くまで行こうとも、その二つが互いに触れ合うその地平線に到達することはできない。
 ファビアンはふと立ち止まり、星夜光を見上げる。 (P5)

と始まった時はワクワクしながら読み進めたのだが、ページがすすむにつれて読むスピードも減速していった。
う~ん 前回読んだ「ラー」の方が面白かったな。

実はローマ時代に科学が発達していたが、核戦争の為殲滅、そして暗黒時代の中世では“物質”が否定されている…などという設定はとても面白かった。
でもどことなく散文的で、あまりまとまっていない気がしたので、連作という形ではなくて、長編小説にした方が良かったのではないか?と素人考えながら思ってしまった。

ざっとした話の流れはというと、“暗黒時代”と呼ばれる中世が舞台。
医師のファビアンは、学生・アルフォンスに出会ってから運命が変わっていくこととなる。
アルフォンスより「科学」の存在を教わったファビアンは、キリスト教と科学の中で煩悶しながら旅を始める。

連作のタイトルを列挙していくと;

「エクス・オペレ・オペラート」

ファビアンはアルフォンスに出会う。
そこでローマ人は衛星を打ち上げる程の技術を持っていたが、核戦争によって失墜したことを知る。
そもそもファビアンを含め、皆奇形であったりするのは(ファビアンは足が悪い)、この核戦争の影響らしい。

「慈悲深く慈愛あまねきアッラーの御名において」

アルフォンスが主役の話。
砂漠にある幻の女神の王国・に行き着く。その壁の模様の螺旋図(マーキュリーの杖のよう、と表現されたいた)はどうやら遺伝子のようだ。

「栄光はことごとく乙女シオンを去り

再びファビアン登場。
教皇使節団の一員としてコンスタンティノープルにやってきたファビアン。一見荒廃した都市に見えたが、実はビザンツ人が見せる幻覚で、本当は電気が走り非常に発達した都市だった。
マルコ・ポーロに出会い、東洋の発達した「科学」の知識も得たり、ビザンツ人が持つ教典を知ったりしたファビアンは、使節団をあとにしてコンスタンティノープルに留まる。

「太古の王、過去の王にして未来の王」

アーサー伝説を下敷きにしたお話。
アルフォンスがパラミラにいる間、関係していた二人はアルフォンスが去ってから女の子を産む。
パラミラは巨人に襲われ、二人の子供はイギリスに連れてこられる。その子のうち一人は妖姫・モルガン、もう一人は女騎士アーサーとなる。

「S.P.Q.R.」

大天使の塔が倒壊し、混乱となったローマ。
公会議が開かれるということで、コンスタンティノープル代表の司教としてローマへやってきたファビアン。
ところがまともな公会議は開かれず、夜な夜な仮面を被っていたり、仮面+奇妙な声色で話す人たちが身勝手に議論を講じるだけ。
それはまるで現代のチャットやら掲示板のよう…

「トランペットが美しく鳴り響くところ」

いよいよ巨人の進出が激しくなり、ファビアンは巨人撃退の軍にいる。
マルコ・ポーロは死んでしまい、不老の力を持ったアルフォンスに再会する。
アルフォンス曰く、あんなに科学が発達した東洋も破壊されたらしい(というか、巨人は東洋が放ったらしい)。

冒頭でも書いたけど、設定は面白かったし、「宗教」と「科学」の間で揺れるというのに中世を舞台にしたのは成功だったと思う。

でもなんだかなぁ 最後の方に出てくる巨人とか、正直「????」という感じで、今まで衛星だとか電気だとか遺伝子だとか現実の世界の科学が元になっていたのに(そしてその設定が面白かったのに)、突然ナウシカの世界になって、正直おばさんはついていけませんでしたよ。

もっとファビアンの揺れを、掘り下げて書いて欲しかった。

<高野史緒 「アイオーン」 2002年 早川書房>

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