図書館で予約した時は40番目だかなんだか、気の遠くなるほど後だったが、けちな私は買うこともせず予約したまま。忘れたころに順番がやってきた。
もちろん後にも人が待っているので、半ばせっつかれるように読み始めたが、読み始めたら最後、面白くてがんがん進んだ。
登場人物が複雑に絡み合い話が進んでいく。
まず登場人物と行動を列挙していくと;
・画家の志奈子と金持ち画商の戸田
→仙台へ行く電車に乗っている。志奈子の回想するシーンがほとんど。
戸田は金で買えないのは何もないと思っているらしく、
現に自分の元から独立した画商・佐々岡が開店する前に根回しして、
結局佐々岡は開店することができなかった。
・空き巣泥棒の黒澤
→出かけに隣りの部屋から酔っ払いをかかえた青年に出会う。
舟木という人の家に泥棒に入り、帰り際老夫婦の強盗に会う。
二件目の家(後で黒澤の家だと判明)で、やっぱり空き巣に入った佐々岡に出会う。
・“高橋”という男を信望する河原崎
→神と崇められる高橋。
そんな宗教のトップクラスの塚本に呼び出され、神=高橋の解体を行うことを告げられる。
それに立会いスケッチを始めるが、その死体は高橋ではなくて
Missingの男だったということが分かる。
塚本に裏切られた、となって塚本を殺してしまう
・精神科医の京子と不倫相手のサッカー選手青山
→絶対離婚してくれなさそうだった京子の夫から、離婚を迫られ喜ぶ二人。
あとは青山の妻を殺すのみ。その妻のもとへ行く途中、人を轢いてしまう。
とりあえずその死体をトランクに入れるが、何度かトランクから落ちるは
挙句の果てには、最後にはばらばらの死体になってしまっている。
最後には、青山は自分の妻と共謀して、自分を殺そうとしてことを知る。
・リストラされた豊田
→舟木にリストラされた豊田。
ひょんなことで拳銃を拾う(京子が用意したもの)。
途中で野良犬に出会い、行動を共にしながら郵便局強盗をしてみたりする。
この登場人物たちが、ちょっとずつリンクしてくのだが、途中で同じ時間軸でそれぞれの話が進行していっていないのが分かる。
そして最後の最後には、最初に黒澤が出会った酔っ払いを抱えた青年こそが、塚本の死体を抱えた河原崎で、河原崎側ストーリーでは最後のシーン。ということは話がぐるぐるまわっている。
何度も話に出てくるエッシャーの絵(表紙の絵でもあるけど)と、良く似た構造になっている。
こういう沢山の登場人物が出てきて、それぞれの視点で話が進む時、“同じ時間の中で、同じ速さで時間が進んでいく”というルールみたいのがあると思うが、それを見事に破った作品だと思った。
とにかくブラボー!!!
最後に引用を。
これの前に読んだ「アイオーン」が神のことを書いてあったが、こちらにも書いてあって、神は自分の胃に似ていると書いてあったのが面白くて;
「俺は自分の意志で勝手に生きている。死ぬなんて考えたこともないし、誰かに生かされているとも思ったことがない。ただ、そんなことは胃がまともに動かなくなったら途端にアウトだ。・・・俺は胃を直接見られない。せいぜい、胃が発する警告やしるしがどこかにないかと気を配るしかできない。後は祈ることだ。内臓ってのは基本的には俺が死ぬまで一緒のはずだ。いつも見えない場所で、そばにいて、一緒に死んでいく。神様と近いだろ?俺が悪さをすれば神は怒り、俺に災害を与えてくる。時には大災害かもしれない。それに、人はそれぞれ胃を持っている。そこも神様と似ている。誰もが自分の神こそが本物だと信じている。相手の神は偽物だとね。ただ、誰の胃も結局は同じものであるように、みんなの信じている神様はせんじつめれば、同じものを指しているのかもしれない」
p72-73
「アイオーン」の方にも、“キリスト教やイスラム教、色々神がいれども、結局同じものを指しているのではないか”という話があったので、まぁ オリジナリティに溢れているわけではないけれども、胃に例えるのが面白かった。
<伊坂幸太郎 「ラッシュライフ」 2002年 新潮社>
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