「ベイジイ」が外国人の名前に見えてしょうがなかった:小路幸也 「空を見上げる古い歌を口ずさむ」


「東京バンドワゴン」が面白かったので作者の小路幸也氏を調べてみたら、メフィスト賞受賞した経歴があるのを知り、ぜひとも読みたくなって借りたのが本書「空を見上げる古い歌を口ずさむ」だった。
一回読み始めたら、あれよあれよとページがめくられる。それくらいどんどん読ませられる話だった。

といっても、話の内容が奇想天外だったり特別面白い設定だったりしたわけではないので、話の運び方というか、筆致というか、それが巧みだったのではないかと思う。

話の始まりは、凌一の息子彰が「みんながのっぺらぼうに見える」と言い始めた。
実は凌一の兄は、凌一の周りで「のっぺらぼう」に見えると言う人がいたら、自分のところに知らせてほしい、と言ってずっと昔に失踪してしまっていた。

そこで兄の言葉に従って、なんとか連絡をとり、すぐさまやってきた兄に話を聞く、というのが発端となっている。

そこから兄・恭一の語りが始まる。
恭一も彰と同じく、皆が「のっぺらぼう」に見えるようになってしまった人だった。
その「のっぺらぼう」になってしまった数日後に、皆に慕われていたおまわりさんが自殺をしてしまう。実は恭一は自殺の現場を見ていて、その現場にはもう一人男がいたのだった。ところが恭一は「のっぺらぼう」に見えている為、その人が誰だかわからない。

その上、同じ日に友達のヤスッパがいなくなってしまう。
更に続けざまに2人目・3人目と平和な町で人が死んでいく。

恭一の方はというと、「のっぺらぼう」に見えない人の存在に気付いていく。
一体これはただの病気なのだろうか?なぜ「のっぺらぼう」な人とそうでない人がいるのだろうか?
と話は進んでいくわけだが、う~ん その「のっぺらぼう」の結末は割とあっけなかった。

「解す者」「稀人」「違い者」というものもなんか薄っぺらいし。
なんというか、ここまで期待させておきながら、何やらSFっぽいというか、そういう安っぽい結末だったのが残念だった。

とここまで文句言いながらも面白くてどんどん進めたのは、少年の頃の回顧話が面白くて、しかも殺人事件や「のっぺらぼう」が絡めば、少年探偵団並みの面白さになる。

 おもしろがるな、とカビラに言っておきながらケイブンはきっと楽しんでいた。仲間内の暗号とかそういうものは皆大好きだった。

p174

なんていうのは「そうそう」と頷いてしまうし、とにかく「のっぺらぼう」としか見えない恭一を受け入れ、なんとかヤスッパを見つけようとするお話は、青春物の熱さとは違った、少年少女の友情冒険物語の面白さを思い出させてくれた。

だからこそ、最後が駆け足のような気がして、腑に落ちない気がしてならなかったのかもしれない。

<小路幸也 「空を見上げる古い歌を口ずさむ」 2003年 講談社>

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