表紙のデザインがいい:法月綸太郎 「しらみつぶしの時計」


久しぶりの法月綸太郎。
短編集だから尻込みをしていたのだが、Amazon.co.jpでの評価が高く、背中を押されて読んでみた。
割と短い話ばかりで、法月綸太郎が得意とする”事件のやりきれなさをきめ細やかに描く”という部分はすっぽり抜けて、パズルっぽい要素の方が強かった。

時には推理の要素がまったくなく、ただ物語のエッセンスみたいのもあった。

「使用中」

ミステリ作家と編集者が喫茶店で次回作の話をしている。密室について語るミステリ作家。
その喫茶店のウェイトレスによって、ミステリ作家はトイレの個室で殺される。
そうと知らず後からやってきた編集者はうっかり死体の入っている個室に入ってしまう。奇しくもミステリ作家が語った密室の状況のようになってしまう。

「ダブル・プレイ」

仲の冷え切った夫婦。旦那は打ちっぱなしで交換殺人を持ちかけられる。
ところがどっこいそれは妻からの差し金で、逆に殺されてしまう。

「素人芸」

パートにも行かないくせに浪費癖のある妻が、腹話術人形を買ったのをきっかけに、勢いで殺してしまう。そんな時に警察がやってくる。死体をとっさに屋根裏に隠し、腹話術の人形を使って取り繕う。

「盗まれた手紙」

冒頭の;

 レンロットの明敏な頭脳が挑戦を受けたあまたの問題の中で、牡牛と百合の紋章を浮き彫りにした鉄の状箱と、その中から紛失した手紙にまつわる事件ほど、スキャンダラスで不可解なものはなかった。事件のスキャンダラスな側面――プライベートな恋文をネタしたお定まりの恫喝――に関しては、お偉方どうしの裏取引によって、政治的な決着がもたらせることになったが、それにもまして、関係者がこぞって頭を悩ましたのは、盗難方法をめぐる知的な問題だった。

p128

を読んだ時には、これは!!と思った。ミステリランドの為に書いた「怪盗グリフィン、絶対絶命」に似ているではないか!
果たして軽快なアメリカの推理小説(あくまで私の印象)みたいだった。
将軍の妻が学者に恋文を送る。恋文が入っている箱に鍵のついた鎖をつけて学者に送る。学者は違う鍵のついた鎖をつけてまた送る。夫人は自分がかけた鍵をはずしてまた送る。そして学者は自分のかけた鍵をあけることで、はれて中身にたどり着くのだ。
そんな手の込んだ事をしたのに、ならず者によって手紙が盗まれてしまう。
一回、この文体でこんな調子のちょっと長めの小説を書いてくれないだろうか?
割と面白いと思うんだけどなぁ

「イン・メモリアム」

文壇にひそかに存在する<評議会>。そこでは存命中の作家への追悼文を書かされる。
そしてしばらくするとその作家は死んでしまうのだ。
本当に短くて、「だからなに?」という感じだった。この文章自体が<評議会>に提出された追悼文、というオチなのかと思ったが、そういうのもはっきりしてなかった。

「猫の巡礼」

猫はある歳になると、巡礼に行くという。動物病院でまで推奨される巡礼。
ある飼い猫の巡礼についていくことにした飼い主の、巡礼までのお話。
これまた“なんじゃこりゃ?”という感じで、こちらは無駄に長い気がした。

「四色問題」

元・刑事が息子である現役刑事より、事件の話を聞くという設定。
戦隊物に出ていた女優が殺される。不思議なことに瀕死のなか、彼女は利き手である左手の手首に×形の傷をつけていた。しかも腕時計をはずして。
彼女の伝えたかったダイイング・メッセージとは?

「幽霊をやとった女」

もとはニューヨークでも指折りの探偵だったクォート・ギャロン。今はルンペンである彼のもとへ、夫の様子がこの頃おかしいので探ってほしい、との依頼を受ける。
尾行をしていたが様子がおかしいので声をかけた途端、彼の姿を見て自殺をしてしまう。

「しらみつぶしの時計」

ある施設の中に違う時間を刻む1440個の時計がある(1440というのは24時間×60分)。
そこに「きみ」はとじ込まれ、体内時計を狂わされた中で、正しい“現在”の時計を探し出す。
どうやって探し出すのかというのが描かれていたが、残念ながら私はまったくついていけなかった……

「トゥ・オブ・アス」

本書は法月綸太郎が出てこないことになっているが、唯一この話だけ法月“林”太郎が出てくる。
お父さんが法月警視というところも一緒だし。
法月警視がOL殺しの話を持ってくる。
そのOLは仲の良い友達と一緒に住んでいたのだが、その友達が失踪しているので、彼女がそこはかとなく怪しい。
死体が持っていた鍵のついた日記をひも解くうちに、ある誤解が生んだ犯罪だということが分かってくる。
途中で展開が見えてしまったので、せっかく唯一の法月“林”太郎が出てくるっていうのに拍子抜けだった。


<法月綸太郎 「しらみつぶしの時計」 平成20年 祥伝社>

コメント

タイトルとURLをコピーしました