思い出したかのように恩田陸で「木曜組曲」。
ひっじょぉおお~~~~に面白かった!!!
実は読み始めるちょっと前にアメリカドラマの「24」にはまって、それから「木曜組曲」を読んだらどちらも止まらなくて、「24」を見ながら「木曜組曲」を読む、というなんとも邪道な(どっちに対しても)ことをしていたのだった……。
この時ほど体が二つ欲しいと思ったことがなかった。
というか脳が二分できたらなぁ
話の内容はというと、
死後四年経っても影響を与える耽美小説家の時子。
その時子に影響を受けた5人の女性・絵里子、静子、えい子、つかさ、尚美。
えい子は敏腕編集者(時子の担当者であり崇拝者でもあった)で、他4人は遠からず時子と親戚でしかも物書き。
5人は時子が毒を飲んで死んだ時、現場にいた。
不審な死であったけれど、遺書が見つかったことから自殺と判定される。
それから5人は、時子が好きだった、そして亡くなった木曜日をはさんで、2月の2週目に2泊3日、時子の家『うぐいす館』に集う。
ところが今年はいつもと雰囲気が違った。
毎年皆、胸に想いを秘めたまま解散するのだが、今回は“フジシロチヒロ”という謎の人から花束が贈られたことをきっかけに様子が変わる。
その花束にはカードが添えられていて、そこに
「皆様の罪を忘れないために、今日この場所に死者のための花を捧げます。」
p29
と書いてあったのだ。
皆の心の内を吐露していくうちに、一人ずつ順繰りに疑いがかかってくる。
そして誰にもそれが“事実”である証明できない。
最後には、「事件の真相」っぽいのが出てきて、それが結局“皆が共犯だった”ということになるが、それに対して何もしないことにして、それぞれ別れていく。
と思いきや、(ここからネタばれ)
実はすべてえい子と絵里子が仕組んだことだったのだ。
全体を通して、とても面白かったし、とにかく心理戦の描写がページを繰る手を速めていたが、最後のオチはないんじゃないかと思う。
来年の約束をして、皆がそれぞれ別れていく…という終わり方で全っ然よかったのに~って感じ。
恩田陸ってどうも蛇足とか、最後が尻すぼまりな時が多い気がする(偉そうですが)。
と文句は言っても「さすが恩田陸!」
というところはもちろんあって、やはり彼女の筆力には舌をまく。
本書は3人称でつづられているのだが、ところどころその人物をズームするように、突然2人称になるのだ。
う~む うまく言えないけど、たとえばこんな感じ↓
尚美は落ち着き払った表情で、膝の上に手を置いて静かに座っていた。
p73-77
お人形のようだ、とつかさは思った。いつもこの子はお人形さんみたいだった。
…(中略<つかさの回想が始まる>)…
つかさが老舗の文学雑誌の新人賞を取った時の尚美の目は、今でも忘れられない。それは、一言で言えば『裏切り者』という目だったと思う。つかさはなぜかしどろもどろに言い訳をした。
いやあ、尚美を見ていてとっても羨ましくなったのよ。
…(中略)…しかし、尚美はどうやらつかさのその言葉を信じていなかったようなふしがある。
外は雨。古い洋館のこぢんまりとした客間は、さながら法廷の様相を呈してきた。
ほんの少し前までは青ざめた静子にスポットライトが当たっていたはずなのに、今ライトが当たっているのは、それまで無口だった尚美らしい。
「――説明してもらえる?」
正面から尚美を見据えながら、静子が有無を言わせぬ迫力を込めて尋ねた。
尚美はチラッと静子を見た。…(中略)…
ほんとうに手強いお嬢さんだこと。
静子は心の中で舌打ちをした。実は、生前時子と尚美の間で何か密約めいたやりとりがあったのではないかと彼女はかねがねえい子と共に疑っていたのだ。
長い引用になってしまったが、くるっと視点(ここではつかさ→静子)が変わったのがお分かりでしょうか?
とにかく鮮やか。
4人が物書きということで人の観察が鋭いのだが、こうやってズームすることで彼女たちがそれぞれ冷静に他の4人を観察していることがよく出てる(それ故か、えい子の視点のシーンは他より少ないのかインパクトが薄い)。
本当につくづく、恩田陸ってすごいなぁ~~~と思った一冊でしたとさ。
<恩田陸 「木曜組曲」 1999年 徳間書店>
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