本書の後頁の各作家の写真があまりに古い!!!:伊坂幸太郎 「陽気なギャングが地球を回す」


ちゃくちゃくと読み進めている伊坂幸太郎作品。
今回の「陽気なギャングは地球を回す」は今までの中で(といってもそんな多くないけど)、私にとって一・二を争う面白さだった。
ちなみにその好敵手は「ラッシュライフ」。
こんなギャング小説(?)なんて今時珍しいし、物珍しさだけじゃなくてきちんと面白い。
何しろ登場人物たちが魅力的で、“銀行強盗”といったら荒くれ者のイメージのところが、割と普通の人ってのがまた面白い。

一見、この人たちは本当に銀行強盗する必要があるのだろうか?(何しろお金に困ってそうでもなければ、社会に反発して生きているようなチンピラでもない)といった人たちなのが、またまたギャング小説のエンターテイメント性を高めていると思う。

さて、その魅力的な登場事物たちはというと……
まずはリーダーの成瀬。彼は人間嘘発見器で、人の嘘を見抜くという特殊な才能を持っている。
いつも冷静沈着で、これぞリーダー!といった人。

次はあたいのお気に入りキャラ・響野。成瀬の友人であり、成瀬の逆をいく人。つまり嘘ばっかり口から出まかせばかり言っている。しゃべるのが大好きで、絶えず演説のようにしゃべっている。
紅一点の雪子。彼女も特殊能力を持っていて、彼女の場合は正確な時間が分かるという、体内時計を持っている。ちなみに慎一という中学生の息子がいて、女手一人で育てている。

最後に一番の若手、久遠。彼はスリの天才で、動物愛護者で、ついでに彼自身が犬っぽい。
ある事件がきっかけで4人は出会い、銀行強盗をすることとなった。
ところが、今回はちょっといつもとは違って、雪子の運転で逃走中に車が突然ぶつかってきて、現金ごと乗っ取られてしまう。

犯人はどうやら、巷を騒がせていた現金輸送車ジャックなのだ。その現金輸送車ジャックは、一仕事を終え(ということは彼らは1億円ほど奪ってきた帰り)、車を銀行強盗の車にぶつけ、車+アナザー現金(4千万ほど)を取って行ってしまったのだ。
ところがそう簡単に話は終わらず、久遠はどさくさに紛れて犯人の一人の運転免許書をスリ取っていたのだった。

それをもとにそいつの家に行ってみると……
その犯人・林が死体になって転がっていた!
それから二転も三転もあるのだが(簡単に言うと<ネタばれ>

雪子が実は裏切り者だったり、でもそれは慎一の父である地道のせいであり、雪子は慎一が心配で加担しただけであったり、成瀬が地道を銀行強盗の仲間に入れたり、でもそれはもちろんのこと騙すためで、それだけでなく最後の最後までどんでん返しが待ちうけている)、それが実に軽快なタッチで描かれている。
こりゃ ベストセラーにもなるわな。
前述通り、響野がお気に入りなのだが、この響野、なんとなく京極夏彦の榎木津・98%、京極堂2%な感じがする。
何せこんな感じ;

「話、長くなる?」久遠がからかうように合いの手を入れる。
「私の話が長くなったことがあるか?」
「話が長くないっていう説明がまた長いんだよ、響野さんは」
「ふん」と鼻を鳴らし、かまわずに続けた。「強いだとか、弱いだとかは、何によって決まるんだ?草原での噛みつきあい、空中戦、それとも学歴、遺伝子の配列か?弱肉強食とほざいているおまえの友達は自分より強い奴に殺さされることを良しとしているのか?自分の頑丈さや足の丈夫さで決まるって言うんだったら、そいつらをはねてくればいい。そうして『パジェロに潰される弱い奴らは死ぬのが当然だ』と教えてやれ」
「目茶苦茶だなあ」久遠が呆れる。
「どうしてライオンがガゼルを食うかと言えば、食わないと死ぬからだ。弱肉強食ってのは食物連鎖に参加している者たちが口にする台詞だよ。自分が死んでも、誰の餌にもならないような中学生が『弱肉強食』なんて言う権利はないんだよ」
「美味い中学生を食ったことがあるような言い方だ」と久遠。
「可愛い羊を食べるほうが残酷だろうが」
「たしかに」久遠は同意する。

(p122)

挙句の果てには成瀬に;

大学生の時には教授と学生の恋愛にも首を突っ込み、喫茶店を経営してからは商店街と大手アウトレットショップとのいざこざにも口を出した。いずれは国家間の、民族間の争いを仲裁するのが夢に違いない。おそらく響野が間に入れば、その騒々しさに誰もがうんざりとして、まずは響野を射殺するのではないか、と思われた。そして、争っていた民族たちは、諸悪の根源はあの饒舌な男であって、これで仲たがいの理由はなくなった、と抱き合って喜ぶのかもしれない。

(p171)

と思わている始末。
その上、銀行強盗の時に演説するのがポリシーとなっていて、「本日はお忙しいところまことに申し訳ありません。紹介が遅れましたが、私たちは銀行強盗です。」(p58)から始まって、“記憶”についてだとか“時間”についてだとかを、銀行の客たちに向けて一席ぶるのだ。
ああ 響野ラブ!!

なんか「軽快なタッチ」だとかなんだとか言ったけど、ただ響野が好きなだけではないか?!私

<伊坂幸太郎 「陽気なギャングが地球を回す」 平成15年 祥伝社>

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